Howard Schneider
[ワシントン 4日 ロイター] - 関税から原油価格、規制緩和、医療政策、人工知能(AI)の急速な拡大まで、民主党の米議会掌握により、経済政策を巡る攻防は新たな局面に入る。これらの政策は、3日の選挙で有権者がトランプ大統領と共和党に幅広く厳しい審判を下す要因となった。
議会は、関税や移民取り締まり、環境・保健規制を撤廃してきた政府機関などを直接統制できるわけではない。また、イランとの緊張が緩和しても、ホルムズ海峡の全面的な通航再開や世界の原油価格の下落に必ずしもつながるとは限らない。
しかし、議会は国の歳出と借り入れを認める権限を握っており、これらはトランプ氏を交渉の席に着かせる強力な手段となる。
新たな議会指導部が合意形成にどの程度手腕を発揮できるか、何を重視するかは未知数だ。ただ、今回の選挙戦の争点は、何といっても生活費の負担だった。このため、民主党がトランプ氏に歯止めをかける取り組みでは、関税やエネルギーコストなど、暮らしに直結する政策が中心になる可能性がある。こうした対決は、歳出を巡る衝突や政府閉鎖のリスクを高める。
米連邦準備理事会(FRB)を取り巻く力学も変わる可能性がある。新たに多数派となる民主党は、議会の監督権限を通じて、インフレ抑制に向けた一段と積極的な措置を求めるとともに、AIの普及がインフレ鈍化につながるとの見方に、より懐疑的な姿勢を示しそうだ。AIの拡大自体も変化する可能性がある。特にテキサス州などの主要州では、AI関連施設の急速な整備に対する監督強化を公約した民主党の知事が選出され、活況を呈するデータセンター建設にブレーキがかかる可能性がある。
ナティクシスの米国担当チーフエコノミスト、クリストファー・ホッジ氏は、3日の開票結果が民主党の圧勝を示す中でまとめた分析で「迅速に実行できる重要政策、すなわち通商政策と外交政策の権限は、依然として行政府に集中している。これらの分野では、トランプ大統領の権限はなおほぼ制約を受けていない」と記した。
一方、「上下両院で十分な議席差を確保した民主党は、譲歩を得られなければ政府閉鎖を辞さず、債務上限も引き上げないと、現実味のある圧力をかけられる」と指摘。トランプ氏が支持した法律で廃止された医療保険向け税額控除の復活などが、その対象になるとした。
次期上院財政委員長に就くオレゴン州選出のロン・ワイデン上院議員は4日の声明で、今後の議論の一端を示した。同委員会は「超富裕層と企業に公平な負担を求める」税制を追求し、医療制度改革を検討するとともに、「米国の通商政策に対する議会の権限を改めて確立する」と表明した。
<債務上限交渉が政策転換の契機に>
国政の勢力図が変化する一方、米経済は堅調に見える。失業率は4.2%で、第3・四半期の経済成長率は年率3.4%と力強い水準に加速した。
一方、インフレ率はFRBの2%目標を大きく上回る水準にとどまり、上昇している。トランプ氏の関税やイランとの戦争によるショックに加え、最近では同氏が後押しするAI関連施設の整備が物価を押し上げている。数兆ドルの資金が流入するAI分野では、産業資材や熟練労働者、電力などの資源への需要が価格をつり上げている。
インフレを抑えるには、こうした成長に多少の歯止めをかける必要があるかもしれない。それは、大手AI企業との資金調達競争で劣勢に立たされている企業の借り入れコストを抑えることにもつながり得る。トランプ氏は、物価を押し上げずに高成長を維持する手段として規制緩和を強く訴えてきた。ただ、自動車の排ガス基準緩和など、一部の措置には民主党が異議を唱える可能性がある。
一方、トランプ氏の政策全体が差し引きでどのような効果をもたらすかは不透明だ。規制緩和は企業のコストを下げる可能性があるが、大半のエコノミストは、関税、イランでの戦争、労働力の増加を抑える移民取り締まりがコストを押し上げてきたとの見方で一致している。
民主党は新議会で、公聴会や調査を通じてこれらの問題を追及し、世論に広く訴える手段を得る。
また、トランプ氏の政権運営能力に直接関わる税制と歳出の権限も握ることになる。政府機関の予算関連法案を通じて、各機関に認められる活動を見直したり、制限したりできるようになる。移民問題や疾病対策センター(CDC)の運営、環境規制の撤廃、ヘグセス国防長官による軍高官の解任など、対立の激しい問題では、こうした法案が政策変更を目指す間接的な手段となり得る。
トランプ氏には拒否権があり、民主党はこれを覆すのに必要な議席数には届かない。
しかし、予算関連法案で合意できず予算が失効すれば、一部の歳出や政府業務が停止し、その間に合意が成立することもある。
コロンビア・スレッドニードル・インベストメンツのグローバル金利ストラテジスト、エド・アルフサイニー氏は「歴史的に、中間選挙は財政政策の隠れた転換点となってきた」とし、2027年後半に始まる「債務上限交渉が、こうした変化を促す自然な圧力点になる」と指摘した。
米国が借り入れを続けるには法定債務上限の引き上げが必要で、これは議会にとって予算とは別の交渉手段となる。
アルフサイニー氏は「米国では政府と議会の多数派政党が異なると政策がまひするという見方は、厳密な検証に耐えない」と述べた。妥協点として、低所得者向け公的医療保険メディケイドの削減や、データセンター投資を促す各種補助金・税制などを挙げた。こうした投資は、民主党が主導権を握ることになった複数の州で主要な争点となった。