[ドニプロ・オデーサ間の鉄道列車内(ウクライナ ) 28日 ロイター] - ウクライナで美容サロンを経営するアントニナ・ビテルさん(36)。首都キーウなど国内に複数サロンを持ち、月に少なくとも6回は移動する。移動手段は鉄道。ロシア軍によるドローン(無人機)攻撃の脅威で移動予定がたびたび狂わされる生活に慣れつつある。

アントニナさんはこの日も南東部ドニプロから黒海沿岸のオデーサへ向かう列車に乗車していた。「3回に1回くらいの割合で、移動中に1回、2回、多い時は3回も避難することになる。だからといって、どうすればよいのか。お客さんのところへ行くには、ほかに手段はない」と語る。

そして案の定、取材後まもなくアントニナさんは列車から出され、真っ暗な10月の夜空の下で毛布にくるまり「警報解除」を待っていた。

<くつろぎの空間だった夜行列車、今は攻撃の恐怖>

ロシアは迎撃が難しいジェット推進型ドローンによる攻撃を拡大。標的は発電所などの重要インフラに及び、鉄道も例外ではない。

ウクライナ国鉄「ウクルザリズヌィツャ」によると、ロシア軍は今年、駅や機関車、旅客車両を含む鉄道関連施設を1700件超も攻撃した。

ドニプロとオデーサを結ぶ約400キロの鉄道路線を取材すると、こうした混乱の中で市民がどのように移動を続けているのかが見えてくる。

往路で約30分間の避難が8回、復路でも1回。空襲警報によって移動時間が突然2倍になることもある。8月13日には、この路線で運転士2人がドローン攻撃の犠牲となった。直接攻撃の脅威は常に存在している。戦線の接近によって東部や南部の一部駅は無期限閉鎖に追い込まれた。

ドニプロからオデーサへ向かう列車に乗り合わせたIT技術者ラリサ・コンスタンティノワさん(41)は、高校生の息子とともにヨーロッパ旅行に行くという。ラリサさんもアントニナさんと同様、現実に適応しようとしている。列車が攻撃される可能性について考えないようにしていると言い、「人間の心というのはそういうものだ。前向きでいようとしながら、この現実の中で生き延びていくしかない」と話した。

9月にはポーランド国境近くでワルシャワ行き列車が攻撃を受けるなど、鉄道への脅威は全国に及ぶ。かつて夜行列車は、静かな時間を過ごすくつろぎの空間だったが、今では多くの乗客が不安を抱えながら乗っている。空襲警報が鳴れば、眠っていても起きて、子どもやペットを連れて畑や線路脇の土手に避難しなければならない。冬になれば気温は氷点下まで下がる。

<死と隣り合わせ>

アントニナさんは同僚とともに列車の外で身を寄せ合いながら、頭上を通過する特徴的な「ヒュー」という音を聞いた後、ドローンの位置を携帯電話のアプリで確認していた。

この時点で、わずか2時間の間に3回目の避難。それでも「次の1時間を迎えられなくなる危険を冒すより、1時間畑に立っている方がましだ」と語った。翌日にオデーサで美容講習会を開く予定があるという。

ドニプロ-オデーサ間では5-12時間の遅延も珍しくないが、この日の列車は約1時間20分程度の遅れで到着した。

<列車を止めない、命を賭して乗務>

ロシアがドローンや弾道ミサイルによる攻撃を拡大する一方、ウクライナ側は防空ミサイルが不足し、突然命を落とす危険性は確実に高まっている。

ウクライナのインフラ相によると、今年だけで50人を超える鉄道職員が勤務中に死亡した。

しかし鉄道を支える人々は、それぞれの方法でこの状況に適応している。列車の乗務員たちは運行開始後、車内を回ってカーテンを閉める。車内の灯りが外から見えれば、ロシア軍のドローンに発見される恐れがあるからだ。

車掌のオリハ・ボニュクさん(49)は、母親が子どもを安心させようとするかのように「向こうから見えちゃうから、隠れなきゃいけないの」と説明する。主任車掌のミコラ・ザハルチェンコさん(47)は、避難が終わるたびに狭い車掌室に戻り、運行中断の記録を丁寧につける。そうした状況でも乗客との会話を思い出して笑顔を見せ、窓から夜明けを眺める時間を今でも楽しみにしている。

「鉄道の仕事には、やはりロマンがある」と語る機関士のミコラ・コワレンコさんは「もし私が辞めたら、誰が列車を走らせるのか」と自らの仕事に対する思いを語った。

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