Yusuke Ogawa
[東京 29日 ロイター] - 安さより利便性を売りにしてきたコンビニエンスストアの客数減に歯止めがかからない。自宅や職場の近くで必要なものを買える手軽さが支持され、店舗網は全国に広がった。しかし、日銀が物価上昇率目標2%の到達を視野に入れるなど日本経済がインフレ局面に入る中、賃上げが追い付かず、消費者は時間より価格を一段と重視するようになりつつある。ディスカウント店や小型スーパーへの客の流出が続き、各社は低価格商品の拡充やゲーム機の導入など新たな集客策に迫られている。
東京都内に家族3人で住む関谷佳菜さん(43)は、物価高の影響でコンビニへ行く機会がめっきり減った。「最近は仕事帰りに駅前で買い物をせずに、週末に車で30分以上かけてディスカウントスーパーに通い、食料品をまとめ買いしている」と話す。
関谷さんのような消費行動の変化は統計にも表れている。日本フランチャイズチェーン協会によると、コンビニ既存店の客数は15カ月連続で前年同月を下回る。直近9月は前年比3.8%減と、新型コロナウイルス禍中の2021年9月以来の大幅な落ち込みとなった。一方で客単価は21カ月連続で前年を上回っており、値上げによって売り上げを維持する構図が続く。
「消費者の価格に対する考えは非常にシビアだ。節約意識が想定以上に高まっている」。セブン&アイホールディングスのグループ商品戦略本部長、北村成司氏は足元の個人消費をこう分析する。9月の消費者物価上昇率は9カ月ぶりに2%を超えた。家計の防衛意識が一段と強まり、ナショナルブランド(NB)に比べて割安なPB商品に関心が集まっている。
そこで同社は低価格帯PB「セブン・ザ・プライス」について、「イトーヨーカドー」をはじめとしたスーパーだけでなく、全国のコンビニでも本格的に展開することを決めた。対象は「ベーコン切落し」(321円)や「ふぞろいのサラダチキン」(同)などの計27品目。北村氏は「とくに地方では生活必需品に対する価格感度が首都圏以上に強い」と語る。
背景にあるのは根強い物価高だ。円安や原油高、天候不順を背景に飲食料品の価格改定が続出し、26年の値上げ品目は2年連続で2万品目を突破した。物価研究の専門家として知られる東京大の渡辺努・名誉教授は今月27日の衆院財務金融委員会に呼ばれ、「日本の食料品のインフレは、他国と比べて突出している」と指摘した。
店頭が値上げ一色に染まる中、コンビニ各社は相次いで割引販促を企画しており、ファミリーマートは9月、朝の時間帯のセット割引を始めると発表。ローソンも同月、2週間限定でパンと店頭で作るコーヒーを同時に購入すると割引くキャンペーンを実施した。
ファミリーマートの井上健司執行役員は10月の決算説明会で「競合のドラッグストアやミニスーパーなどが、お得感を前面に打ち出している。我々は客のニーズに応えきれていない」と話した。
実際に、安さを武器にする一部のスーパーの客足は堅調だ。ディスカウント店大手のトライアルホールディングスが昨年買収した西友は、9月の既存店客数が前年同月比6.9%増と高い伸びを示した。西友のPB「みなさまのお墨付き」に加え、約300円の「ロースかつ重」をはじめとするトライアルの低価格PB商品を積極的に売り場へ投入したことが奏功した。
西友の楢木野仁司社長はロイターの取材に応じ、「インフレに対して賃金上昇が追いついておらず、ディスカウント店に有利な状況だ」と説明した。西友の店舗を製造拠点として活用し、小型スーパー「トライアルGO」を首都圏中心に100店舗を出店する方針だという。
イオン系の小型スーパー「まいばすけっと」は25年度末で1300店を超え、30年度までに2500店に増やす計画を掲げる。同店は標準的な広さを50坪前後に抑えながら、1店あたり平均日販は約72万円に達し、すでにコンビニ大手を上回っている。
<ゲーム機導入、コト消費に活路>
コンビニ各社の悩みは、こうしたライバルとの競争だけではない。人件費や光熱費の増加で加盟店の利益は圧迫される。大手各社は新たな収益源を確保するため非食品領域の開拓を進めている。
ファミリーマートは、アパレルの販売に加え、クレーンゲームやガチャガチャ(カプセルトイ)などのゲーム機を店内に導入。雑誌売り場やイートインを縮小してスペースを確保し、現在の約3倍の5千店規模に拡大する方針だ。
ローソンは約1500店に導入済みで、体験を楽しむコト消費を喚起して、カップルや友人同士での来店増加につなげる狙い。加盟店にとってゲーム機は設置費用がかからず、管理維持にかかる手間も比較的少ないという利点がある。
もっとも家計が支出に慎重になる中で、客足の回復につながるかは不透明だ。中東情勢の悪化に伴う原油価格高騰が電気やガス代に反映されるため、ニッセイ基礎研究所の斎藤太郎氏は物価上昇率が今後3%を上回ると予想する。年明けには実質賃金はマイナスに転じる可能性が高く、消費が落ち込む恐れがあるという。
小売り業界全体を見渡せば、カジュアル衣料店「ユニクロ」が、11月10日から予定していた「50色ソックス」の値上げを急きょ撤回した。価格改定の発表後、「まとめ買いがなくなっちゃうのが地味に痛い」などの投稿がソーシャルメディアに相次いだ。
来年4月から食料品の消費税減税が予定されているが、2年間の時限措置のため貯蓄に回る所得の割合が高く、斎藤氏は個人消費の押し上げ効果は限定的とみる。値引き競争に巻き込まれれば収益性は低下するだけに、業界は「便利さ」の先にある新たな価値を示せるかどうかが問われている。
(小川悠介 編集:久保信博)