Tamiyuki Kihara Yoshifumi Takemoto

[東京 29日 ロイター] - 企業へのサイバー攻撃による情報漏えいが相次ぐ中、消費活動への影響を不安視する声が政府内から出始めている。高市早苗首相はセキュリティー強化や被害防止を関係閣僚に指示し、近く政府の緊急対策パッケージをまとめる構えだ。専門家は、企業の情報管理に対する国民の不信が高まっているとし、国内総生産(GDP)を押し下げる恐れもあると指摘している。

<政府は「緊急対策パッケージ」取りまとめへ>

「漏えいした情報を悪用した二次被害への不安が高まるなど深刻な事態になっている。早急な対策強化が必要だ」。高市氏は26日に首相官邸で開いた第1回サイバーセキュリティーに関する関係閣僚会議で、こう強調した。

政府のサイバー対策を担う「国家サイバー統括室」(NCO)によると、情報漏えい事案は今年に入って大幅に増加した。特にアプリを含むウェブシステム関連の事案が10月に入って急増しており、標的の調査や侵害にAI(人工知能)が使われている可能性が高いという。FX(外国為替証拠金取引)業者が標的になったケースでは、GMOインターネットグループ の自動売買サービスが攻撃を受け、顧客情報とみられるデータが一部インターネット上に公開される事態に発展した。

高市氏は同会議で、1)被害企業などへの支援、2)情報収集体制の強化や的確な情報発信、3)無害化措置の戦略的実行などを指示している。民間の高度な専門能力を活用するための仕組みの構築を進めるほか、中小企業や小規模事業者への被害を防止する支援体制を検討するとも表明。来週中をめどに、政府としての「緊急対策パッケージ」を取りまとめる方針を明らかにした。

<GDP損失額が大きく膨らむ可能性>

一方、すでに発生した被害によって懸念されるのが経済活動への影響だ。野村総合研究所エグゼクティブ・エコノミストの木内登英氏は、「サイバー攻撃による情報漏えいで個人の不安が拡大することで、インターネット経由の個人消費が萎縮し、企業の売り上げがマイナスになると想定している」と指摘する。

木内氏が、過去にサイバー攻撃を受けたKADOKAWA 、アサヒグループホールディングス 、アスクル 、ニチレイ の4社に限って影響を試算したところ、開示情報や報道ベースでの売上高の減少は計1542億円に上った。これをもとにGDPの損失額を計算すると、556.8億円になるという。

ただ、試算には消費縮小によるGDPの押し下げ効果や、今秋以降に明らかになった情報漏えいによる影響は含まれていない。木内氏は「試算の時点よりも状況はかなり悪化しており、被害の全容を公表しない企業もあると思われる。現時点で損失額を定量的に示すのは難しい」とした上で、「売り上げや消費の落ち込みによるGDPの損失額は、今後大きく膨らむ可能性がある」と語った。

<政府関係者が挙げた二つの方策>

2040年度に名目GDPを1100兆円に迫る規模へ引き上げる目標を掲げる政権にとって、サイバー攻撃の影響は軽視できない。政府関係者は「被害規模がどこまで大きくなるかは見通せないが、消費縮小などGDPのマイナス影響につながる懸念は政府内にも当然ある」と明かす。

政府が取り得る対応について、同関係者は二つの方策を挙げた。一つはセキュリティーの強化、もう一つは企業側に過度な個人情報を保有しないよう求めることだ。高市氏による関係閣僚への指示については、被害防止や攻撃への対処に加え、「国民がこれまで通り安心して消費できる環境を整えることが目的でもある」と説明した。

消費縮小への懸念や政府の対策方針について、木原稔官房長官は29日午前の記者会見で、ロイターの質問に対し、現時点でGDPに与える影響を具体的に示すことは難しいとの認識を示した。その上で、「非常に重要なことなので、引き続き高い緊張感をもって注視していきたい」と語った。

また、サイバー攻撃から国民の安全・安心な暮らしや企業の経済活動、国の安全保障を守るため、高市氏が関係閣僚会議で示した取り組みを進める必要があるとの考えを強調した。

(鬼原民幸、竹本能文 編集:橋本浩)

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