再生可能エネルギーは業界を刷新している。だが太陽光・風力発電インフラには、大きな欠点が2つある。見方によっては景観を破壊し、膨大な面積の敷地が必要になる。

そこで注目されているのが浮体式発電所だ。発電システムを搭載した洋上の船舶などから陸上の送電網に電力を直送する仕組みで、島嶼(しょ)部や沿岸都市への安定供給を実現する手段として、世界各地で弾みがついている。

発想自体は目新しいものではない。史上初の事例はアメリカで1930年、臨時の電力供給のため発電船に改造された貨物船ジャコナ号だ。90年代には、米原子力発電大手ウェスティングハウス・エレクトリックなどが、途上国で電力を供給する発電用はしけ型浮体の建造に着手した。

浮体式発電所は恒常的な電力供給が可能だ。採鉱など特定の活動、あるいは自然災害やインフラ障害の際に一時的な電力提供もできる。

重油・天然ガスと太陽光、利点はあるが欠点も

主な種類は2つある。

自航式のパワーシップは大規模な発電設備を擁し、通常は天然ガスや重油で発電する。エンジンのないはしけ船のパワーバージの場合、必要な場所まで曳航され、現地の電力インフラに接続して発電する。

太陽光パネルや蓄電池を搭載した太陽光パワーバージもあり、河川沿いや辺境の沿岸地域で特に利便性が高い。

だが、どちらにも欠点がある。太陽光パワーバージは能力が限られ、一般的な発電量は最大50メガワット程度しかない。一方、温室効果ガス排出量の多い重油などを燃料にしている既存のパワーシップは、世界各国がエネルギー部門の脱炭素化を急ぐなか、いずれ時代遅れになる可能性が高い。

浮体式原発は、2020年にロシアで商業運転開始

そこで新たなシステムが関心を集め始めている。小型原子炉を用いる浮体式原子力発電所だ。

初の実用化例は、改修型原子炉2基を積んだロシアのアカデミク・ロモノソフ号で、2020年にロシア最北端の港湾都市ペベクで商業運転を開始した。

浮体式原発は、人口20万以上の都市全体の電力需要に応えられる。ディーゼル燃料が不要で、ペベクのような北極圏の地域社会にとって特に有害な黒煙の健康・環境リスクがない。小型設計のおかげで原子炉ごとに燃料交換ができ、安定的な発電が可能だ。

既に地中海沿岸部やノルウェー、日本、インドで潜在的メリットを探る動きが広がっている。

だが原子力の利用には、使用済み燃料の処理問題や(ごくわずかとはいえ)炉心溶融のリスクが伴う。しかも運用中なのはアカデミク・ロモノソフだけで、本格化には程遠い。

それでもロシアや韓国は現在、国内外向けの浮体式原発の開発を進めている。

一方で、国際的関心の高まりは法規制をめぐる疑問を呼び起こす。

法律上の定義は船舶なのか、発電所なのか。安全性はどの程度で、どのような安全規制が必要なのか。国際海洋法を含む国際法の適用対象なのか、安全リスクや環境被害について誰が責任を持つのか──。

現時点ではいずれの問いにも明確な答えがない。

アメリカ船級協会が2024年、浮体式原発に関する初の包括的ルールを発表したのは、期待できる第一歩だ。だがロシアなどが実験を行うなか、安全で効果的な利用を保証するには、国内・国際レベルで法的枠組みを整えることが欠かせない。

The Conversation

Tina Soliman-Hunter, Professor of Energy and Natural Resources Law, Macquarie University

This article is republished from The Conversation under a Creative Commons license. Read the original article.

POINT(本誌サステナビリティ室長 森田優介)

newsweekjp20250624060949.png安全性や環境汚染に対する懸念はありつつも、原発は昨今、エネルギー安全保障の点から現実的な選択肢として再浮上しています。本記事が紹介する浮体式原発も今後、現実的な選択肢の1つとして広まるかもしれません。


 

 
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