地震やパンデミック、熱波など日常を襲う危機が多様化するなか、世界の災害対策はなお「事後」に偏っている。UNDRR(国連防災機関)によれば、災害関連のODA(政府開発援助)は緊急対応が9割。防災に充てられるのはわずか3%だ。
災害による実質的損失は世界で年間2兆3000億ドルを超える。それでも「備えよ」という正論は人を動かせずにいる。
この行き詰まりを覆す概念が日本から現れた。「フェーズフリー」──日常と非常時の垣根をなくし普段の暮らしを豊かにするものが、もしものときの生活や命を守るようデザインするという考え方だ。
例えば、スポーツシューズの技術で作られた革靴なら、帰宅困難時でも長距離を歩きやすい。快適な外回りのために買ったはずが、いざというときの備えにもなる。
矢野経済研究所によれば、フェーズフリー認証商品の国内市場規模は2024年度で232億円。2026年度には倍増すると推計されている。
地方自治体は2018年頃から動いていた。日本各地の庁舎や公園、道の駅がにぎわいの場と防災拠点を兼ね始めている。
国も続く。今年5月、高市早苗首相はフェーズフリーを各省庁の施策に浸透させることを掲げた。6月には内閣府で促進検討会が始動し、7月に骨太の方針にも明記。今秋発足予定の防災庁は、その司令塔になろうとしている。
次のページ