数学の議論をしているだけだった
彼は間違っていた。その誤りを確認した実験は、22年のノーベル物理学賞につながった。
そこに量子力学の特異さがある。これは史上最も成功した物理理論だ。実験結果を小数点以下11桁まで予測でき、人間には見ることも触れることも、直感的に理解することもできない世界の層を記述する。
人間は分子や物質、化学反応を支配する方程式を書き表すことはできたが、それを解くことはできなかった。量子力学は、その方程式を解き明かす可能性を開く。
量子力学を築いた1人ポール・ディラックは、1920年代に既にその点を指摘していた。化学のほぼ全てと生物学の大半は量子力学の方程式で記述できるが、複雑すぎて解けない。実際の計算では、問題を単純化して解くしかなかった。
異次元のように感じられる世界に手を伸ばしたいという野心こそ、IBMのガンベッタをこの分野に引き込んだものだ。博士課程での研究テーマは、測定の瞬間に何が起きるかをめぐる量子力学の「解釈」だった。
「結局、私たちは数学の議論をしているだけだと気付いた」と、ガンベッタは本誌に語った。「使っている数式は同じなのに、その数式が現実について何を意味するかを議論しているだけだった」
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