Dhara Ranasinghe Alun John
[ロンドン 5日 ロイター] - フランスの国債利回りが上昇(価格が下落)し、ユーロ圏全体に波及し始めたことに身構えている政策当局者の耳に、ユーロの下落という新たな警鐘が鳴っている。
ユーロ/ドルは5日に1.12ドルを下回って17カ月ぶりの安値を付け、ユーロは英ポンド、スイスフラン、円に対しても急落した。
欧州市場の懸念の中心にあるのがフランスだ。
フランス政府は、赤字を削減して記録的水準の債務を抑えるために、不人気な2027年予算を成立させようとしている。しかし議会は来年の大統領選挙に向けて各会派が主張を強めるなどして深く分断されており、通過は容易ではない状況だ。
投資家はリスクを避けてフランス国債を売り叩き、安全なドイツ国債を買っている。
ドイツ国債に対するフランス国債の上乗せ利回り(スプレッド)は10―12年のユーロ圏債務危機以来の最高水準に達し、為替市場は波及を恐れている。
この動向は、政治的不確実性に揺れるユーロ圏の弱い経済成長を脅かしている。ドイツでは先月、メルツ首相の与党が州議会選挙で戦後最悪の敗北を喫した。そして今週5日には、スペインのサンチェス首相が電撃的な解散総選挙を発表。イタリアも来年選挙を控えている。
ユーロ圏ではエネルギーコストの高騰により既にインフレ率が上昇し、利回り上昇は家計や企業の借入コストを押し上げている。ユーロ安が進めば、欧州中央銀行(ECB)はインフレ抑制と国債市場鎮静化の間で板挟みになりかねない。
フランスとドイツの10年国債利回りスプレッドは先週、過去数十年で最大の週間拡大幅を記録し、イタリアとドイツの同スプレッドもコロナ禍以来で最大幅拡大して約130ベースポイント(bp)に達した。
ソシエテ・ジェネラルのチーフFXストラテジスト、キット・ジャックス氏は「何らかの形でより脆弱だと見なされた債券がより大きく売り込まれ、それがユーロ売りを誘発してその勢いが増している」と説明。「夏の間、ユーロ/ドルを支えて重要な節目の上に維持していた要因は消えたと思う」と語り、エネルギーショックは一過性だ、あるいは米国はドル安を推し進める、といった想定が崩れたと指摘した。
<ユーロ安の新局面>
ユーロは、ロシアのウクライナ侵攻がエネルギー危機を引き起こした22年に付けた20年ぶりの安値は大きく上回っている。しかし債券市場の動きによってユーロ安に新たな側面が加わった。
BofAのFXストラテジストの試算によると、ドイツ国債に対するフランス国債のスプレッドが10bp拡大するごとに、ユーロ/ドルは0.4%下落しそうだ。
ゴールドマン・サックスのアナリストチームはノートで「通常、(スプレッド拡大に対する為替の)反応はゼロに近いが、深刻なストレス時には大幅に高まる可能性がある」と指摘。「スプレッドが唯一の重要な要因になる瞬間が来るまで、スプレッドは通貨に影響を与えないものだ」とし、リスクイベントによってドイツ国債利回りが下がる一方、他のユーロ圏国債利回りが上昇する時にユーロへの影響が強まると説明した。
先週はまさにこのケースで、ドイツ10年国債利回りは約17bp低下と、24年以来で最大の週間低下幅を記録した。
アムンディ・アセット・マネジメントのグローバルFX責任者アンドレアス・コーニグ氏は「ユーロ/ドルは通常ドル側の影響をより強く受けるが、今回は欧州からの影響もある」と語る。「欧州のニュースが最後にユーロを動かした時までさかのぼるには、少し時間を巻き戻す必要がある」という。
コーニグ氏は中期的にユーロ安の反転は見込めないと考え、米国の成長・金利見通しを踏まえてドルをオーバーウエートとするポジションを維持している。
米商品先物取引委員会(CFTC)のデータによると、トレーダーはユーロ下落に賭けるポジションを組んでおり、この見方はオプション市場にも反映されている。
ユーロを買うオプションと売るオプションのコストの差を表す3カ月のユーロ・リスクリバーサルは2日、24年以来で最もユーロに弱気な水準まで低下した。
アナリストらはユーロが1.10ドルを試す可能性があると指摘している。ソシエテ・ジェネラルのジャックス氏も円やスイスフランなどに対するユーロの脆弱性を強調した。ユーロは9月、円に対して約4%下落した。
債務市場のストレスと並行してユーロが下がったことで、政策当局者がどのように市場を安定させられるかに焦点は移った。特に来年のフランス大統領選により、さらに緊張が高まった場合が問題だ。
ECBは「トランスミッション保護ツール(TPI)」により、「正当化されない、無秩序な」金融環境のタイト化に直面した国の国債を無制限に買い入れることができる。
今のところ、ユーロ圏の成長は弱いながらも改善している。
S&Pグローバルのデータによると、9月のユーロ圏の企業活動は過去3年半で最も速いペースで拡大した。
ユーリゾンSLJアセット・マネジメントのスティーブン・ジェン最高経営責任者(CEO)兼共同最高投資責任者(CIO)は「ユーロは既にわずかに過小評価されていると考えているが、欧州における財政波及リスクを抑え込めない場合、ユーロ/ドルはさらに下がる可能性がある」と述べた。