[ブバネシュワル(インド) 24日 ロイター] - インドで、学校の周辺50メートル圏内における高脂質・高糖質食品の販売制限に向けた動きが進んでいる。 子どもの肥満が深刻化する中、ジャンクフードの消費を抑える狙いがある。
この規則により、インド国内の学校150万校の近くで、甘い清涼飲料水や塩味のポテトチップスから、脂っこいサモサやピザ、ハンバーガーまで、さまざまな食品を販売する家族経営の商店、レストラン、屋台が影響を受けることになる。
ペプシコやコカ・コーラ、モンデリーズ、ネスレといった多国籍企業にとっては、さらなる足かせとなりそうだ。各社はすでに脂質、塩分、糖質の多い「HFSS食品」(High in Fat, Salt and Sugar)に赤い警告ラベルを付ける規制案への対応を迫られている。より厳しい食品安全規制を導入しているチリやメキシコに、インドも足並みをそろえる形だ。
学校周辺の国内企業や食料品店のオーナーの中には、すでに不安を抱いている人もいる。東部のブバネシュワル市で事業を営む十数人の店主が、売上が3分の1以上減少する可能性があると述べた。
ある店では15歳のプリヤンシュ・パレイさんが、ペプシコの人気ポテトチップス「アンクル・チップス」を2袋買い、リュックサックに入れて登校していった。「休み時間に食べる」と言い、母親が用意したご飯とレンズ豆のシチューの弁当よりも、このスナックを好んでいた。
インドが断ち切りたいのは、まさにこうした習慣だ。
改革を主導するインド食品安全基準局のラジット・プナニ局長によれば、学校で「安全な食品」を提供するこの計画は、子供らを早い段階で不健康な習慣から遠ざけることが目的だという。
同局長は「子供らによるこうした食品の摂取を抑えなければならない。こうした食品を避ける習慣を身につけさせる必要がある」と主張。「企業に大きな影響を与えることはないだろう。HFSS食品でなければ販売できるのだから」とも述べ、規制によって企業に商品の成分を見直すよう促し、より健康的な商品への転換を図るのが狙いだと説明した。
2020年に初めて提出されたこの規制案について、具体的な施行時期は決まっていない。全国的な食品安全対策の強化が進む中、当局は8月に、学校周辺や校内での販売を制限する脂肪、塩分、糖分の含有量に関する基準値を公表。10月6日までパブリックコメントを募集している。
<子供の肥満が急増>
インドでは近年、レイズのポテトチップスからキャドバリーのチョコレート、マギーの麺類まで、様々な外国製品の人気が高まっている。低所得層の国民の中には、外国ブランドの商品を購入することを生活水準向上の象徴と捉える人もおり、同時に価格の安さにも魅力を感じている。23年には、ドミノ・ピザがインドで世界最安値のピザを発売し、わずか49ルピー(約81円)で販売した。
食生活の変化に伴い、5―19歳の肥満または過体重とみなされる子供の数も増加している。世界肥満連盟のデータによると、15年の2800万人から25年には約50%増の4100万人に達し、40年には5600万人に増える見通しだ。
インドの連邦法が学校付近の店舗に対し、児童生徒へのHFSS製品の販売および広告のみを禁止することを目的としているのに対し、ムンバイのある西部マハラシュトラ州はより厳格な対応を取っている。州食品安全委員のトゥカラム・ムンデ氏によると、学校から50メートル以内の店舗では該当商品の取り扱い自体が一切禁止される。
「学校周辺にはこうした店が何百軒もある。児童生徒に販売しているかどうかを、どう監視するのか。店側はこういった商品を棚に置くことすらできなくなる」とムンデ氏は述べた。
ロイターが入手した同州のデータによると、これまでに学校から50メートル以内の133の店舗で違反が発覚し、そのうち51店舗が営業停止を命じられた。
<業界の苦境>
機密扱いの意見書草案によると、インド食品貿易産業連盟は、多くの学校が一般市民向けの混み合う市場の近くにあるため、規制順守は困難だとの懸念を表明した。同連盟は問い合わせに対し回答していない。
文書は、規制によって「商売が成り立たなくなり、生活が脅かされる」と懸念を示し、制限は校内のみに適用されるべきだと主張している。
「レイズ」ブランドを展開するペプシコは取材に対し、校内での販売を制限する世界共通の社内規定があると説明した。即席麺「マギー」を製造するネスレは、自社の世界基準に基づき、一定の栄養条件を満たす製品に限って小中学校で販売していると回答した。
コカ・コーラと、キャドバリーの親会社であるモンデリーズは、ロイターの問い合わせに回答しなかった。
インドの法律事務所RAKLawで食品規制を専門とするラフル・カンナ氏は、クライアント、特に子供を「重要な顧客層」とする菓子メーカーの間で「懸念の波」が広がっていると述べた。具体的な企業名は明らかにしなかった。
米ノースカロライナ大学の研究者によると、世界中で5カ国が学校周辺での販売制限を提案または実施しており、校内でのジャンクフード販売を規制している国は48カ国に及ぶという。
16年に警告ラベルの義務化に踏み切ったチリでは、校内でのジャンクフードの販売や宣伝も禁止された。今年発表された医学誌「ランセット」の論文によると、規制導入から1年半で女児の肥満率が2.85%ポイント、男児は2.4%ポイント低下したという。
この規制を受け、メーカー側はチリ国内で扱う多くの製品について成分の見直しを迫られた。
同国のアドルフォ・イバニェス・ビジネススクールのギレルモ・パラヘ教授はこう指摘した。「もしこの法律に効果がなく、消費者の買い方も変わらないのなら、メーカーがここまで反発するわけがない。法律ができれば、嫌でも成分の変更を迫られることは目に見えているからだ」