ランタン・リルン氷河の後退速度は2010年以降、急加速
これにより潜在的な地質学的脆弱面が一段と滑りやすい状態に置かれた。ヒマラヤ地域の氷河は過去数十年間にわたり年間0.5メートルを超えるペースでやせ細り続けている。特にランタン・リルン氷河の後退速度は10年以降、急加速している。
過去2世紀間の年率0.5%という後退率から直近16年間では年1〜2.3%に跳ね上がっていた。氷河のやせ細りと後退は側壁の岩盤を物理的に支えていた支持力を消失させ、岩壁内部の応力を大きく変化させる。
これが既存の亀裂を広げて不安定化させ、融解水の増加と連動して複合的崩壊を増幅した。気温上昇に伴い、降雨と降雪の境界が高標高側に移動する。雪は地表に固体の形で蓄積されるのに対し、雨は斜面に即座に水を供給する。
崩落直前の2カ月間は平年値を大幅に上回る高温状態
総降水量が極端に増大せずとも雨の割合が高まったことで斜面地下に浸透し貯えられる水量は増える。直近12カ月間は全体として高温が記録されており、特に崩落直前の2カ月間は平年を大幅に上回る異常高温だった。
WWAのモデル分析では、人為による気候変動により直前の7〜8月の気温が局地的に約1.5度、年間平均で約2度押し上げられていた。昨年10月の記録的な降水量も融解水供給源になったとみられる。
異常な高温が雪氷融解を加速させ、雨と雪の境界を押し上げた。凍結限界高度の追跡調査では地球温暖化の進行にあわせて高標高側への顕著なシフトが確認された。直近の数十年間にわたりモンスーン期を中心に10年当たり約100メートルのペースで上昇し続けている。
今回の大洪水は既存のリスク軽減策の想定限界を完全に凌駕した。急速に温暖化する高山帯において極端化かつ複雑化する災害の脅威が「適応」能力をはるかに超える現実が浮かび上がる。「損失と損害」への対応が気候変動対策において避けては通れないことを突き付けている。
トランプ思想・世界経済・安全保障の新常識。今盛んに使われるキーワード50を徹底解説