<ルール改正の時点で「ご存知ですか?」と周知を始めるようなケースは、主権者が政策決定に参加していないということ>
9月1日に道交法施行令が施行され、いわゆる生活道路の制限速度が60キロから30キロに引き下げとなりました。突然30キロも下げられたことで、従来は合法であった60キロで走行して検挙されると、一発免停になるのではといった声が出ており、一種の「混乱」が生じています。
今回、30キロに引き下げられる道路の条件は、具体的に決まっています。幅が5.5メートル未満、センターラインなし、速度標識なしであれば従来60キロ制限であったのが、30キロ制限になるのです。歩行者や自転車が被害に遭う事故を削減するには有効な対策であろう、ということで採用されたものです。
都市部の住宅地や、地方の集落内の道路であれば、それこそ従来が60キロ規制だったのが不自然であり、安全という観点では当然の改正だとも言えるでしょう。自転車への青切符導入という4月の制度改正に呼応したものだとも言えます。
ですが、疑問は残ります。幅の狭いものの、見通しが良い直線で周囲には人家はなく、都市間交通を担っている一般道というのはあります。多くの場合、これからは60キロや50キロの速度標識を立てて対応するのでしょうが、標識のない区間に曲がって入ってきたクルマなどは摘発が怖くて30キロで走るかもしれません。そうなると、都市間輸送のトラックやレンタカーの観光客などに煽られて危険な経験をしてしまうなどのケースは起きると思います。
また地域の公安委が速度標識を設置しなかったら、郊外の一般道は制限速度30キロということになり、そうなるとトラックやバスの輸送ダイヤが崩壊するかもしれません。制限速度のない自転車の方が速く走って自動車を抜こうとするといった新たな危険が発生する懸念もあります。いずれにしても、様々な疑問が湧いてくるのは事実です。同じようなことは、半年前の自転車青切符導入の際にもありました。
施行されて始まる「ご存知ですか?」キャンペーン
交通法規だけではありません。それこそ、消費税率の変更から高齢者医療制度などの大規模な法改正もそうですが、いつも「施行のタイミング」になって初めて、「混乱」という名の議論が起きているのです。法改正が行われると関係省庁は、施行の少し前から広報を始めます。広告代理店を雇って「ご存知ですか?」などというキャンペーンをするのです。
やがて、世論から多くの疑問が上がるようになるとメディアが動いて特集記事などが出るようになり、ネットでも盛り上がりが見られるということになります。そうこうするうちに実際に法律が施行され、現場では紆余曲折の結果、徐々に運用が定着するという順序を踏みます。
ですが、よく考えるとこうした手順というのは不自然です。今回の改正を例にとって考えてみると、まず、どうして法改正ではなく、道交法の施行令つまり政令の改正で済ましたのでしょうか。これは、道路交通法にそう定められているからです。具体的には22条です。
「(道路交通法第22条1項)車両は、道路標識等によりその最高速度が指定されている道路においてはその最高速度を、その他の道路においては政令で定める最高速度をこえる速度で進行してはならない」
つまり法律は制度の枠組みを定めるだけ、最高速度の数値は政令で決めていいという「建て付け」になっています。「法定速度」などと厳粛な名前になっていますが、政府が決定していいのです。例えばですが、4月の自転車青切符制度や2024年11月の「自転車のながらスマホへの罰則導入」の際は法律の改正でしたから国会の議決が必要でした。