Federico Maccioni Sarah El Safty Siddarth S
[ドバイ 28日 ロイター] - 米国とイランの戦争によって世界の貿易地図が塗り替わったことで、中東・ペルシャ湾岸諸国は投資戦略の見直しを迫られており、紛争による打撃への耐性を高めるため、エネルギーパイプラインから港湾まで、インフラに資金を振り向けている。
今回の戦争で湾岸諸国がホルムズ海峡に過度に依存している実態が浮き彫りになった。ホルムズ海峡はこれまで世界の石油輸送量の約20%が通過する要衝だったが、一方で過去数十年にわたりイランによる航行妨害の脅威にもさらされてきた。
そのホルムズ海峡が過去6カ月の大半にわたって事実上封鎖されたことで、数十億ドル規模の投資計画が相次いで浮上。湾岸のエネルギー輸出国は、深刻な景気減速に直面する自国経済を将来のリスクから守ろうと、インフラ整備を急いでいる。
通商の一部はサウジアラビアの紅海沿岸の港湾や、アラブ首長国連邦(UAE)東部の港湾に向かっているが、こうしたルートの輸送能力はホルムズ海峡経由に劣る。ある業界関係者は匿名を条件に、湾岸各国政府がホルムズ海峡を経由せずに済む恒久的かつ一体的な物流網を構築する方法を検討していると述べた。
<港湾一色>
湾岸各国政府の多くは、数十年かけて蓄積してきた石油収入という資金源を活用できる。ただ、野心的な対内直接投資目標の達成を目指す中、外部からの資金調達に頼る国が出てくる可能性もある。大型インフラファンドなど海外投資家が湾岸地域の資産に関心を示しているからだ。
向こう数年間に必要となるコストは数千億ドルを超える可能性があり、世界最大級の規模を誇る湾岸諸国の政府系ファンド(SWF)は、既にインフラ投資の加速に着手している。
サウジを含む湾岸各国政府にとって、港湾整備は「最重要課題」となっていると、別の業界関係者は指摘。サウジについて、「2年前ならスポーツが最大の話題だったが、この1-2年は港湾一色になるだろう」と述べた。
アブダビの政府系ファンド・リマド(L'IMAD)は先週、UAEの物流・港湾運営大手ADポーツの残りの株式を買い取る計画を明らかにした。同社の事業戦略見直しの一環。
ADポーツはUAE国内や世界各地で港湾を運営しているが、UAE国内のコンテナおよびばら積み貨物、一般貨物の取扱量は第2・四半期に前年同期比で約3分の2減少した。同社は事業が「20年の歴史でおそらく最も重大な試練」に直面したと説明している。
世界最大級の港湾運営会社の一つであるドバイのDPワールドも、上期に事業が縮小した。同社はUAEのフジャイラ港でコンテナターミナル2カ所を開発する計画。UAEはフジャイラ港向けの新たな石油パイプラインの建設を進めており、来年稼働すれば同港への原油輸送能力は倍増する見通し。DPワールドはUAE国内で内陸コンテナターミナルの整備も進めている。
英資産運用会社シルク・インベストのジン・ベッカリ最高経営責任者(CEO)は、湾岸諸国政府には、こうしたインフラ投資の加速の大部分、あるいは全てを国内資金で賄うだけの資金力があると見ている。「インフラは、利益を享受する確実な分野だと思う」
サウジは、ホルムズ海峡を経由せずに原油を輸送するため、数十億ドル規模の計画を前倒しで進めている。関係筋が先月ロイターに明らかにしたところによると、この中には西部の紅海沿岸に向かう原油パイプラインの輸送能力拡大計画も含まれる。実現すれば、近隣諸国はホルムズ海峡を通らずにより多くの原油を輸送することが可能になる。
<経済への打撃>
湾岸地域の生産施設が攻撃の対象となったことで、海運が混乱しただけでなく、石油精製所やアルミニウム工場、データセンターなどにも大きな影響を受けている。また航空便の運航も戦争前の水準を下回ったままだ。
さらに、今回の戦争は、湾岸のハブ都市が築いてきた「安全なビジネス拠点」としての評判を揺るがしている。ロイターが実施したエコノミスト調査によると、カタールとクウェートの経済は今年、それぞれ8%強縮小する見通し。サウジの成長率も2025年の4.5%が今年は1.4%に鈍化すると予想されている。
世界有数の液化天然ガス(LNG)輸出国だったカタールは、ホルムズ海峡に全面的に依存している上、エネルギー関連施設が被害を受けたことで、深刻な生産不足に直面している。
クウェート石油公社は原油輸送問題に対処するため、サウジとUAEとの間でパイプライン網の拡張について協議中。イラクはトルコのジェイハン港を経由する原油輸出拡大に取り組んでいるほか、シリアのバニヤス港とヨルダンのアカバ港からの原油輸出を開始することを目指しており、新たなパイプラインの建設も計画している。
最近ではホルムズ海峡の通航が一部再開されているが、貿易量は限られており、敵対行為が沈静化しているとはいえ、イランと米国の紛争に明確な終わりは見えていない。ホルムズ海峡を巡る支配権争いは両国の対立点の中でも特に大きな争点となっており、各国は同海峡への依存度を低下させる新たな手段を模索するため、連携を強めている。
トルコの運輸相は6月、トルコとサウジをヨルダン、シリア経由で結ぶ鉄道を今後3-4年以内に建設する計画を明らかにした。他の湾岸諸国もこのプロジェクトに参加する予定だという。
米シンクタンク、大西洋評議会の中東イニシアチブで元上級研究員を務めたアファク・フセイン氏は「最近のホルムズ海峡危機から、こうした脆弱性が現実に存在し、どのチョークポイント(海上交通の要衝)であっても、いつでも問題が起こり得るという非常に重要な教訓を得た」と述べた。その上で、たとえ当初は採算性に乏しく見えたとしても、貿易や輸送の代替ルートを確保しておくことは必要だと指摘した。