スマホが利用する「認知バイアス」
そして、スマホが人を惹きつける仕組みを理解するうえで欠かせないのが、私たちの「認知バイアス」を利用したデザイン。人は日常的にさまざまな判断や意思決定を行なっているが、それは必ずしも論理的に、あるいは確率論的に情報を比較検討しているわけではない。
むしろ多くの場合、経験的に有効だと考えられる「手短な推論の道筋」に頼っているものだ。端的に言えば、主観的である。心理学者のダニエル・カーネマンやエイモス・トヴェルスキーは、これを「ヒューリスティクス」と呼んだ。
ヒューリスティクスとは、複雑な問題を迅速に処理するために人間が用いる認知の便法、経験則を指します。たとえば「よく耳にする情報ほど真実らしく感じる」「多くの人が選んでいるなら安心できる」といった判断がそれにあたります。これは論理性や数理統計的推論にもとづくものではなく、むしろ「不完全だが素早く実用的」な判断方略です。(71ページより)
なるほど、ヒューリスティクスには利便性があるだろうが、その半面、誤った判断につながることもあるだろう。つまり、論理的・確率論的推論にもとづいた場合の最適な選択・判断からの乖離を「認知バイアス」と呼ぶわけである。
確かに、これら3点を確認するだけでも、私たちが心の癖を利用されていることが分かるのではないだろうか。
前述のとおり、本書の目指すところは「スマホの支配から逃れること」にあるようだ。ただし、予想していたほど「具体的な工夫」が提示されているわけではなかった。特に後半は、アカデミックな色彩が強い。
そのため“答え”や“対策”を期待する方には物足りないかもしれないが、それでも研究に基づく理論的な記述に、相応の説得力が備わっていることは事実だ。
[筆者]
印南敦史
1962年生まれ。東京都出身。作家、書評家。広告代理店勤務時代にライターとして活動開始。他に、ライフハッカー[日本版]、東洋経済オンライン、サライ.jpなどで連載を持つほか、「ダ・ヴィンチ」などにも寄稿。『遅読家のための読書術』(ダイヤモンド社)、『人と会っても疲れない コミュ障のための聴き方・話し方』(日本実業出版社)、『この世界の中心は、中央線なのかもしれない。』(辰巳出版)など著作多数。2020年6月、日本一ネットにより「書評執筆本数日本一」に認定された。
曖昧すぎる目標、敵国の軽視、自国軍事力への過信……長期化・泥沼化したベトナム戦争との共通点
