Gertrude Chavez-Dreyfuss
[ニューヨーク 21日 ロイター] - 米国で人工知能(AI)投資資金を調達するための社債発行が急増し、債券市場では投資家需要の限界が試されている。一部の大手機関投資家からは、市場に消化不良の兆候が現れ始めているとの指摘も出てきた。
こうした社債を発行するアマゾン・ドット・コムや、グーグルの親会社アルファベットのような企業の信用力が揺らいでいるわけではない。しかし、急増する社債を吸収するため、投資家はより高い利回りを要求するようになっている。このため、AI投資がさらに拡大すれば市場が転換点を迎えるとの懸念が浮上している。
シュローダーの米国債券部門責任者ニール・サザーランド氏は「特にテック企業の社債スプレッドに消化不良の兆候が出始めている」と話す。その上で「アマゾンやグーグルなど高格付けテクノロジー企業の信用問題ではない。しかし、これら企業の起債が増えるほど、投資家はそれを吸収するために上乗せ利回りを求めるようになる」と指摘する。
市場関係者によると、アマゾンが最近発行した250億ドルの超長期社債は、米国債に対する上乗せ利回りが約120ベーシスポイント(bp)に達した。昨年ならばその半分程度で済んだという。
サザーランド氏は「テック企業の社債スプレッド(上乗せ利回り)は市場平均よりかなり低かったのが、今では平均より大きくなっている」とし、「スプレッド拡大により、市場の他のセクターが相対的に割高に見えるようになっている」と話す。
キャピタル・グループのポートフォリオマネジャー、カレン・チョイ氏によると、テック企業のスプレッドは現在89bpで、投資適格級社債の平均を9bp上回る。
テック業界は強固な財務基盤と比較的小さな資金需要を背景に、最低水準のスプレッドを享受してきた。それが大きな変化を迎えていることになる。
各国政府が巨額の国債発行を続けているところにAI関連社債の発行が急増したことは、米国債利回り上昇の主因の一つだ。仮にテック企業の発行が減少すれば、長期米国債相場の下支え要因となる可能性がある。
<拡大する新発プレミアム>
DWSの米州債券部門責任者ジョージ・カトランボーン氏は、発行額が過去最高水準に達する中、投資家はより大きな新発プレミアム(既発債に比べた上乗せ利回り)を要求し始めていると言及する。
BNPパリバの8月10日時点のデータによると、ハイパースケーラー(大規模クラウド事業者)の今年の社債発行額は2200億ドルに達した。前年同期は125億ドルだった。
アルファベットが今月発行した社債は順調に消化されたが、それでも既発債に対して約10―15ベーシスポイントのプレミアムを要求された。
カトランボーン氏は「1月と8月では発行環境が全く異なる」と述べ、市場に疲労感が出始めているとの認識を示した。
同氏はまた、投資適格社債市場に大きな変化が生じていると指摘した。従来は資金需要がもっと小さく期間も短めの社債を発行していた企業が、AI投資資金を調達するために起債の額を大幅に拡大し償還年限も長くしているという。その結果、償還期間の異なる多様な社債が発行されるようになった。
ただ、投資家らは今のところ警戒すべき状況ではないとの見方を示す。アナリストらによると、ハイパースケーラー各社は依然として高い信用格付けと豊富なキャッシュフローを維持している。
ただ、特に起債の価格決定に際して、企業の信用力よりも需給要因の影響が強まり始めている。
キャピタル・グループのチョイ氏によると、これまで海外投資家や年金基金、保険会社がAI関連社債を一部吸収してきた。投資適格社債指数の利回りは現在約5.4%と長期平均並みで、需要を支えている。
<ポートフォリオの制約>
しかしながら、より大きなリスクは需要そのものというより、機関投資家の運用上の制約にあるのかもしれない。
チョイ氏によると、多くの年金基金や保険会社は、単一発行体への投資比率を資産全体の2―3%程度に制限している。一握りのAI関連企業が繰り返し社債を発行すれば、こうした上限がますます重要になる。
前倒しの起債が続く場合、そのリスクはさらに高まる。チョイ氏は、顧客は分散投資を重視しており「運用報告書を開いたら単一銘柄が10%を占めていたという状況は望まない」と指摘。最終的にはこうしたポートフォリオ制約が需要を制限する可能性を指摘した。
長年にわたり債券投資家からほぼ無制限の需要を享受してきたテック企業だが、市場は今、どこまでAI投資競争に資金を提供してよいものかと自問し始めている。
カトランボーン氏は「これは白紙委任状ではない」とし、「企業が繰り返し起債を続ければ、新発プレミアム(既発債に対する上乗せ利回り)はさらに拡大し、(米国債に対する)スプレッドも一段と広がるだろう」と警告した。