Dawn Kopecki
[ニューヨーク 20日 ロイター] - 今年の米中間選挙では、一握りの億万長者と企業が企業による選挙支出をけん引している。彼らは、過去数十年にわたりワシントンの政治的序列の頂点に座ってきた従来型の有力者ではない。
政治資金監視団体や共和・民主両党の戦略担当者12人以上への取材によると、今年主役に浮上しているのは暗号資産(仮想通貨)、人工知能(AI)、オンライン賭博といった業界だ。こうした勢力を中心に、中間選挙に向けた企業支出は過去最高水準に達している。
新たな資金流入をもたらしているのは、1世代前にはほぼ存在しなかった産業の新興富裕層だ。彼らはウォール街や製薬、石油、メディア業界が伝統的に占めてきた領域に入り込んでいる。
議会がこうした新興産業に対して監視や規制の強化を進める中、創業者らは資金を投入して政界を味方に付け、ルールを形成し、規制強化の動きを押し返す狙いだ。
企業責任を追及する非営利団体「パブリック・シチズン」がまとめたデータによると、昨年初めから今年第1・四半期末までの15カ月間に中間選挙のために企業が投じた金額は5億1700万ドル(約822億300万円)。これは2024年の大統領・議会選挙に向けた2年間の支出額、合計4億6100万ドルをすでに上回っている。しかも選挙戦のための支出が本格化するのは11月3日の選挙直前だ。
パブリック・シチズンの調査ディレクター、リック・クレイプール氏は「この選挙サイクルにおける企業支出の規模は、過去に目にしたことのないレベルだ」と述べた。
こうした支出を巡っては、少数の利益団体の影響力が強まる結果、暗号資産やAIの規制、データセンターの電力需要、オンラインギャンブルの監視といった問題が幅をきかせ、ガソリン価格の高騰や医療費といった人々の財布に直結する課題が押しのけられかねないとの批判がある。一方、他の業界が長年享受してきた発言権を、新興セクターも得ることができるとして前向きにとらえる声もある。
それでも、資金の効力には限界がある。世論調査によると、米国民の大半が政治にカネが絡み過ぎていると感じており、民主党急進派の上院候補者の一部は、大富豪や金持ち企業がワシントンで過度な影響力を行使していると主張することで、選挙戦を有利に進めている。
<歯止めのない資金投入>
パブリック・シチズンの調査によると、今年第1・四半期までの中間選挙向け企業支出のうち、暗号資産、テック、オンラインゲーム業界によるものが少なくとも2億9400万ドルを占めた。
前回の選挙サイクルで暗号資産業界が開拓した手法に倣い、これらの業界はスーパーPAC(政治活動委員会)、業界の関連PAC、そして献金者の開示義務がない「ダークマネー」非営利団体の広範なネットワークを通じて選挙資金を築いている。
こうした組織は無限に資金を集められるが、候補者への直接献金や、候補者との直接的な協力は禁止されている。その代わり、広告費の支払いや有権者の動員、選挙決起集会の主催などが行える。
これとは別に、これら企業を率いる経営者らは直接数百万ドルを投入している。例えば米実業家イーロン・マスク氏は、中間選挙に向けてすでに9000万ドル以上を投じ、11月までにさらに巨額の資金を費やす計画を立てている。グーグル共同創業者のサーゲイ・ブリン氏も、カリフォルニア州で提案された富裕税への反対運動などに1億600万ドル以上を費やしたことが、連邦および州の提出文書で分かっている。
メタ・プラットフォームズは、カリフォルニア、テキサス、イリノイなどの州選挙で両党の候補者を支援するため、4つの異なるスーパーPACに計6500万ドルを寄付した。
政治広告調査会社アドインパクトによると、マスク氏のような富豪や労働組合、社会的活動からの支出を含むすべての政治支出を算入すると、中間選挙の政治広告には過去最高の116億ドルが費やされる見込みで、過去最高だった24年選挙の112億ドルを更新する見通しだ。
<前回選挙の成功体験>
暗号資産企業のコインベースとリップル、そして投資会社アンドリーセン・ホロウィッツは24年、スーパーPAC「フェアシェイク」を通じて巨額の資金を投じ、オハイオ州で長年議席を維持していた民主党の現職シェロッド・ブラウン上院議員を落選させることに成功した。
この戦略があまりにも効果的だったため、パブリック・シチズンはフェアシェイクを「個別候補者を粉砕する最終兵器」と呼んだ。従来の慣習を打ち破り、単一の政党とは連携しないフェアシェイクの手法を、現在テック大手やスポーツ賭博などの業界が模倣していると民主・共和両党の戦略担当者らは言う。
<AI業界が参戦>
24年の選挙では影が薄かったAI業界だが、今回はすでに存在感を示している。
選挙資金の記録によると、6月だけでもオープンAIとアンソロピック、あるいは両社の幹部が支援する政治団体が、ニューヨーク市選挙区で対立する2人の民主党候補に2300万ドル以上を投入した。両社は異なる種類の規制監視体制を求めている。
非営利の選挙資金監視団体オープンシークレッツのディレクターであるブレンダン・グラビン氏は「実質的に2つのAIグループが戦っていたようなもので、候補者は二の次だった」と言い切る。
関係筋によると、AI分野のスーパーPAC「リーディング・ザ・フューチャー」は、中間選挙に向けて1億4000万ドルを集めた。
従来の党派にとらわれず、業界を支援してくれそうな候補を後押しするAI業界の取り組みについてグラビン氏は「24年に暗号資産業界が行った手法の多くを模倣している」と指摘した。
オンラインスポーツ賭博業界も同様の手法を模倣している。
パブリック・シチズンの推計によると、ドラフトキングス、ファンデュエル、ファナティクス、そして英bet365は、これまでに中間選挙に7200万ドル以上を支出し、今回の選挙の企業献金規模で第3位の業界となっている。提出書類によると、これらの企業は自社が最も激しい規制に直面している州の選挙に向け、2つのPACを通じて資金を投入している。
また提出書類によると、予測市場のポリマーケットは6月、親会社を通じてマイク・ジョンソン下院議長が支援する共和党系のスーパーPAC「コングレショナル・リーダーシップ・ファンド」に100万ドルを寄付した。
パブリック・シチズンのクレイプール氏は「2010年以降に費やされた企業資金の3分の1が、今回の選挙のために投じられており、しかもまだ選挙は終わっていない」とし、「今回の選挙に注ぎ込まれた企業資金の量は前代未聞だ」と語った。