これからの日本企業が取るべきアプローチ

以上の構造的要因を勘案すると、統計データにおける事件数がゼロ、あるいは極めて低い数値を示しているからといって、それが直ちに現地の安全を意味するわけではないことは明白である。

統計の数字を無批判に受け入れ、それを基準にして構築されたリスク評価モデルは、進出後に予期せぬ深刻な事態を招き、企業のグローバル戦略に打撃を与える危険性を孕んでいる。

これからの経済安全保障時代を生き抜く日本企業が取るべきアプローチは、表面的な公式統計のみに依存する姿勢から脱却し、より多角的なインテリジェンス体制を構築することである。

具体的には、国際機関のレポートを補完する形で、現地の主要メディアだけでなく地方紙やソーシャルメディアにおける治安関連報道の推移を定点観測し、報道のトーンの細かな変化を察知することが求められる。

さらに、現地治安当局の汚職度やガバナンスの成熟度を測る指標を組み入れることで、発表されるデータの信頼性そのものをあらかじめ割り引いて評価する仕組みを導入する必要がある。

また、日本政府の情報だけでなく、広範な情報収集網と独自の分析視座を持つ米国や英国といった諸外国の政府が発出するトラベルアドバイザリーの表現や警戒レベルの推移を比較・分析することも、客観的なリスクを浮き彫りにする上で極めて有効である。

最終的に企業が注視すべきは、過去に起きた事件の数という静的な指標ではなく、テロ組織がその地域で保有している活動潜在力、すなわち未遂事件の発生頻度や現地住民の間における支持基盤の広がりといった動的な脅威の質である。

情報の裏にある国家の意図や構造的な歪みを読み解き、立体的なリスク像を描き出すインテリジェンス能力の確保こそが、不確実性の高まる国際社会において企業の資産と従業員の安全を守り抜くための鍵となる。

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