なぜ統計は歪むのか?「数字の裏」にある3つの構造的要因
公式統計だけでは現地のテロリスクを見誤る背景には、数字の裏に隠された三つの構造的要因が存在している。
第一の要因は、現地の治安当局や捜査機関における能力の限界に伴う認知漏れの発生である。
グローバルサウス諸国の中には、中央政府の統治能力が国土の全域に等しく及んでいない国も少なくない。特に国境地帯やインフラの整備が遅れた地方、山岳地帯やジャングルといった地理的境界においては、治安当局の監視の目が十分に行き届いていないことが珍しくない。
このような地域において武装勢力や過激派組織による襲撃、恐喝、あるいは誘拐などのテロ行為が発生したとしても、そもそも地方の警察組織が機能していなかったり、通信環境の劣悪さから中央に報告が届かなかったりすることで、行政の記録に一切残らないケースが多々ある。
結果として、事件の発生そのものが認知されないまま放置され、国際的なデータベースや公式統計に反映されない隠れた脅威が温床として維持されることになる。
第二の要因として挙げられるのが、政治的意図による情報のフィルタリングである。
外資系企業の誘致や国際的な投資の呼び込み、あるいは観光業の振興を至上命題とする開発途上国の政府にとって、自国内でテロが発生しているという事実は当然ながら大々的にしたくない。
そのため、政権の安定や経済的利益を最優先する政治的インセンティブが働き、発生したテロ事件を意図的に公表しない、カウントしないといったケースが考えられる。
具体的には、特定の過激派組織による明確な政治的・思想的意図を持った爆破や襲撃であるにもかかわらず、治安当局の発表や公式の記録においては、単なる一般犯罪である強盗や土地を巡る暴動、あるいは偶発的な思想事件として処理されるケースである。
このような操作が行われることで、統計上はテロ事件数が低く抑えられ、一見すると治安が安定しているかのような虚偽の印象が創出される。
第三の要因は、未遂事件の不可視化という問題である。
テロのリスクを真に評価するためには、実際に被害が発生した事件だけでなく、その背後でどれほどの攻撃が計画され、実行に移されようとしていたかという活動の活発度を把握することが極めて重要である。
しかし、治安当局が事前に情報を察知して未遂の段階で阻止したケースや、テロリストが設置した爆弾が技術的な不具合によって不発に終わったケースなどは、実害が発生していないために公式のテロ事件統計にはカウントされないことが一般的である。
実質的なテロの脅威や組織の作戦行動能力が依然として高く、いつ大規模な惨事が発生してもおかしくない状況であるにもかかわらず、実害がないという理由だけで数字上は安全であると処理されてしまうため、統計データを追うだけでは潜在的な危機の予兆を捉えることが不可能となる。