もう1つ忘れられない経験がある。クールジャパン関係の官僚と話した際、彼らは「素晴らしい日本のアニメ・マンガコンテンツを多角的に生かす道を……」と語っていた。が、突っ込んで話を聞いてみると、彼ら自身のアニメ・マンガ知識はどうも『ドラゴンボール』全盛期あたりで止まっているらしかった。
もちろん、全員が最新の深夜アニメや同人文化に詳しくあるべきという話ではない。しかし、少なくとも「何が、どこで、誰に、なぜ刺さっているのか」を見る目は必要だったはずだ。「『呪術廻戦』が気になります」ぐらいは言ってほしい。
実務的にみて、いわゆるクールジャパン政策には何が足りなかったのか。
第1は、コンテンツの吟味力だ。何が本当に強い作品なのか。何が一時的な話題で、何が長く残るのか。見分ける力が弱かった。
第2に、市場の吟味力だろう。海外と一口にいっても、ドイツ、フランス、台湾、アメリカでは読者とその背景にある文化的文脈も異なる。にもかかわらず、「日本市場で高評価だからどこでもいけるだろう」という雑な認識でひとまとめにしすぎた。
第3に挙げられるのは商才。文化を売るには、文化への敬意だけでは足りない。販路、価格、宣伝、現地パートナー、タイミング。それらの商業的文脈を組み合わせて初めて、作品は市場で生きる。
第4に「誠意」を入れることも考えた。作品や現地読者に対する誠意。しかし考えてみると、それは私のお気持ちにすぎない。誠意がなくても、上記の吟味力と市場感覚と商才があれば、案外うまくいったのかもしれない。
そう考えると実にわびしい。クールジャパン政策とは、日本文化の実力に政策側がただ乗りし、経済の枠組みで扱い切れなかった「物語」だったといえるだろう。クールジャパン機構は「死に体」だが、まだ死に切れていない。そこがまた切ない。
マライ・メントライン
MAREI MENTLEIN
ドイツ北部キール出身。2度の留学を経て2008年から日本在住。独TV局プロデューサーや翻訳、通訳、執筆、コメンテーターなど幅広く活動する自称「職業はドイツ人」。近著に『日本語再定義』(小学館)など。
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