Tamiyuki Kihara Yoshifumi Takemoto

[東京 16日 ロイター] - 日銀が16日の金融政策決定会合で、政策金利を1%に引き上げた。昨年12月以来の利上げで、31年ぶりの高水準となる。高市早苗首相は自身が掲げる「責任ある積極財政」の実現を見据え、基本的には利上げに否定的だとされる。一方、今回の決定にあたって高市氏が積極的に「反対」のメッセージを発した形跡はない。静観した背景には、高市氏と政権を取り巻く二つの要素が透けて見える。

<「向こう1年は利上げ不要」>

「どんな結果になろうとも、日銀の責任だというスタンスだ」。決定を前にした16日午前、政府関係者の一人はロイターの取材に、高市氏の心境をこう解説した。

2月の衆院選で歴史的大勝を遂げ、高市氏の下にはかつてない権力が集中している。選挙公約の実現にこだわる姿勢を貫き、「成長投資」や「危機管理投資」の実行に向け、政府内では「つなぎ国債」の発行を含めた予算確保の準備が着々と進んでいる。

国内投資を増やし、企業収益と国民所得の向上による経済再生を図るのが政権の基本スタンスだが、それには積極的な財政出動が欠かせない。日銀の利上げによって長期金利が跳ねれば、国債に頼る手法は批判の的となる。だからこそ、高市氏や周辺は「向こう1年は利上げ不要」と言い続けてきた。

<「日銀の責任でやれ」>

ただ、今回の利上げ決定について、高市氏は半ば静観していたと、前出の関係者は話す。理由は大きく二つ。一つは米国からの注文、もう一つは日銀との距離感だ。

ベセント米財務長官は5月、パリでのロイターとの単独インタビューで日銀の植田和男総裁に言及し、「優れた中央銀行総裁だ。必要なことを行う余地が与えられれば、優れた金融政策を実現すると確信している」と語った。

日本政府内では、ベセント氏が日銀に早期利上げを促した発言だと捉えられた。実際、経済官庁幹部は「米は直接的に『利上げしてほしい』とは言わない。ベセント氏の言い回しで十分にメッセージを伝えているつもりだろう」と語った。

米からの事実上の注文がある中で、高市氏としても利上げを妨げるような行動は取りにくいというわけだ。

一方、複数の政府関係者は「高市氏に金融政策の確固たるポリシーはないようだ」と語る。為替や長期金利の動向に気を揉むことはあっても、政策実現にこだわる姿勢を変えようとはしない。ある政府関係者は「選挙で支持された政策にこだわるのは政治家として当然」としつつ、「マイナーチェンジができないことで、糸が切れた凧のようになる懸念がある」と話した。

こうした高市氏の姿勢は、日銀との距離感にもつながっているという。複数の関係者は今回、「高市氏は日銀の背中を押すことも引っ張ることもしなかった」と説明する。そのうちの1人は「為替や金利への影響を含めてすべては日銀の責任でやれ、ということだ。日銀の独立性を考えれば、それは本来の政府と日銀の姿でもある」と語った。

<「利上げ環境に変化の可能性」>

市場の関心は年内の再利上げの有無に移る。株価が歴史的高値水準にある一方、政府内には「バブル」の破裂への懸念もくすぶっている。米とイランの和平合意が物価抑制につながれば、「日銀が年内の再利上げにこだわる必要がなくなる可能性もある」(経済官庁関係者)との見方もある。向こう数カ月の国際情勢や市場動向を受け、高市氏のスタンスはどう変化するのか。ある政府関係者はこう答えた。「一貫した方針があるわけではない。本人が最後の最後に何と言うか、誰にも分からない」

今回の日銀の利上げ判断や政権との距離感、今後の見通しを専門家はどう見ているのか。

SBI証券の道家映二・チーフ債券ストラテジストは、決定後に行われた日銀の内田真一副総裁の会見について「安全運転だった。先行きの利上げ見通しについても、それほどタカ派トーンはなかった」と指摘。「今回の利上げで長期金利が上がってしまったからだろう」と分析した。

その上で、今回の日銀の判断を受けた高市氏の心境について「高市氏は基本的に利上げ反対だったはずだ」とし、「今回も昨年12月と同様、利上げとともに長期金利が上がってしまった。低金利水準では当たり前の事象だが、利上げに反対だった首相は怒るだろう」と推察した。

今後の見通しについては「個人的には引き続き利上げ路線を進めるべきだと考える」としつつ、「米とイランの和平合意によって原油価格は急落し、今後の利上げ環境が変化する可能性もある」と語った。

農林中金総合研究所の南武志・理事研究員は、ホルムズ海峡の安全な通行にはまだ時間がかかると指摘した上で、「日銀としては、今後も手を緩めることなく物価の上振れへの警戒を続けるのが当面のスタンスだろう」と指摘。内田氏が会見の中で利上げ判断の理由の一つに景気下振れリスクの低下を挙げたことに触れ、「その認識を政府とどこまで共有できるかが注目される」と語った。

日銀と政府のコミュニケーションについては「今後物価が落ち着いてきたら、政府側が『もう利上げは不要じゃないか』と言い出しかねない」とし、「節目の1%を達成したことで、今後の追加利上げはより難しくなる可能性がある」とも述べた。

(鬼原民幸、竹本能文 編集:橋本浩)

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