Takahiko Wada
[東京 15日 ロイター] - 米国とイランの和平合意を受け、物価上昇リスクとの関連で日銀が注視してきた原油先物価格が急落したものの、市場では日銀の利上げ路線に変更はないとの見方が大勢だ。中東情勢が剥落すれば、それ以前の路線に戻ることが可能となり、円安基調が継続する中で、夏の価格転嫁の動向次第では10月に追加利上げするとの予想も出ている。日銀内でも物価上昇リスクに関して、原油価格上昇より円安の影響が大きいとの指摘がある。
<元の「利上げ路線」>
日銀は4月の展望リポートで、中東情勢の帰すうを経済と物価を左右する大きなリスク要因と位置付けたが、和平合意が履行されればそのリスク要因が剥落することになる。和平合意に従ってホルムズ海峡で自由な航行が復活すれば、原油など中東依存度の高い重要物資の供給が戦闘開始以前の状態に戻り、日本経済の下振れリスクは大きく後退する。和平合意報道を受け、NY原油先物価格は急落しており、石油関連製品のコスト上昇分もいずれ、はく落していくことになりそうだ。
しかし、市場では日銀の利上げ路線に変更はないとの見方が大勢を占める。SOMPOインスティチュート・プラスの亀田制作エグゼクティブ・エコノミストは「イラン情勢緊迫化前の利上げ路線に戻るだけのことだ」と指摘。「おおむね半年に一度の利上げで正常化を続けていき、依然低い実質金利を引き上げていくという流れは変わらないだろう」とみている。
<物価影響は原油より円安>
今回の和平合意は、中東情勢緊迫化で原油価格が高騰し、インフレ対応で各国の中央銀行が利上げに前傾姿勢を取る中で実現した。欧州中央銀行(ECB)は11日に利上げを決定。複数の関係者によると、日銀は16日の金融政策決定会合で利上げを決定する見通し。米連邦準備理事会(FRB)を巡っても、年内の利上げ観測が浮上している。
野村証券の岩下真理エグゼクティブ金利ストラテジストは、日本は他国と異なり「円安が定着しており、インフレ懸念が残る」と指摘。日銀が16日に政策金利を1%に引き上げることを決めても中立金利の推計値の下限付近であり、「夏場の値上げの動向次第では、10月の利上げの可能性も残る」とみている。
日銀は、中東情勢が緊迫化する以前から為替円安の物価への影響を警戒してきた。4月の展望リポートでも、原油価格上昇と円安とを比較し、物価への影響が大きいのは円安の方だと指摘している。
<賃金の上振れリスクに警戒感も>
6月の決定会合を迎えるにあたり、日銀の一部では、先行き賃金が上振れる可能性に警戒感も出ていた。夏場に向けての企業の値上げ表明についても、賃上げの原資を意識した部分も含まれているのではないか、との見方がある。
SBI新生銀行の森翔太郎シニアエコノミストは、法人企業統計に基づけば労働分配率や設備投資のキャッシュフロー比率は過去最低になっており、「賃金の上振れリスクはある」と指摘する。
日銀の中心見通しでは、今年度後半から27年度にかけて、基調的な物価上昇率は2%に到達する。日銀は、基調物価の2%到達時に政策金利が中立金利に到達する姿を目指しており、10月以降、物価動向のみならず賃金を巡る経営者の発信により注意を向ける必要があるとの声が聞かれる。