Polina Devitt
[ロンドン 12日 ロイター] - 2023年以降の金価格上昇を後押ししてきた「完璧な好条件」の環境が、米国の金融引き締め観測とドル高によって変化してしまった。その結果として金価格は1オンス=4000ドル付近の脆弱な水準に取り残されている。
地政学的リスクや財政赤字、中央銀行による買い入れが引き続き長期的な金の支援材料となっているものの、今回の価格反転で記録的な上昇相場の持続性に疑問が投じられた。
金現物は1月に5595ドルの最高値をつけた後、イランでの戦争が原油価格の高騰を招き、インフレ懸念に基づく利上げ観測を強めたことで25%下落。これにより、過去の極端なショックに見舞われた局面と同様に安全資産としての魅力が薄まり、11日には価格が半年ぶりの安値に沈んだ。
ステート・ストリート・インベストメント・マネジメントの金・金属戦略責任者を務めるアーカーシュ・ドシ氏は「極めて短期的には、市場は米連邦準備理事会(FRB)の利上げリスクとドル高を消化しなければならない」と指摘した。
ドシ氏は、中東の紛争が和らいで原油が1バレル=80ドルまで下落すれば、金が反発する余地があると予想する。長期的には、財政赤字の膨張や、イランでの戦争の影響による地政学的な分断が進めば、金は再び安全資産としての地位を取り戻す可能性もある。
金価格は12日時点で1オンス=4188ドル前後で推移しており、11日には昨年11月以来の低水準となる4022ドルまで売られた。
今月上旬に発表された強い5月米雇用統計がFRBの利上げ観測を高め、金価格は2年半ぶりに200日移動平均線を下回った。
ある貴金属トレーダーは、現在4446ドルの上値抵抗線として機能して、注目を集めているこの200日移動平均線の動きは、市場の長期トレンドが変化したことを示唆していると語った。
金は昨年64%急騰し、過去46年間で最大の上昇を記録していた。
近年の金の記録的な上昇は、トランプ米大統領の関税措置やFRBの独立性、ロシアによるウクライナ侵攻などに関連したリスクを軽減しようとする投資家の安全資産需要と、中央銀行の旺盛な買い入れにけん引されてきた。
オンライン市場ブリオンボールトの調査責任者を務めるエイドリアン・アッシュ氏は「アナリストたちがトランプ氏による『新世界無秩序』に注目していた一方で、昨年の大幅な上昇のかなりの部分は利下げ期待が原動力となっていたようだ」と分析する。
アッシュ氏によると、6月2日までの1週間でニューヨーク商品取引所(COMEX)金先物取引における投資家の売り持ちポジションは昨年1月以来の低水準で、弱気な賭けがこれから積み上がり、価格下落圧力が高まる余地は十分にあるという。
スタンダード・チャータードのアナリスト、スキ・クーパー氏は、金ETF(上場投資信託)が保有する金のうち、少なくとも270トンが4250ドルを下回る価格で含み損の状態にあると見積もっている。
今後価格が4000ドルまで下がれば、その量は298トンに達する。こうした中で金ETFからの資金流出は5月に計16トン、6月第1週には7トンに達した。
投資家が様子見姿勢を強めるのに伴って、インドでは金現物が大幅なディスカウント(指標価格を下回る水準)で取引されるなど、実需は季節的に低迷している。
MKSパンプの金属戦略責任者を務めるニッキー・シールズ氏は、金価格が「より戦略的な追い風や触媒が表れるまで」の間、今後数カ月はレンジ相場が続くと予想している。