<欧米13機関の認知戦レポート507件を検証すると、多くの専門家がナラティブや発信者の特定に偏り、資金・ボット・増幅ネットワークなどの「作戦基盤」を見落としている実態が浮かんだ>
認知戦やデジタル影響工作、FIMI(Foreign Information Manipulation and Interference)と向き合う専門家、政治家、ジャーナリストには、国を問わず共通する傾向がある。起きていることの全体像も、実際の影響や被害も把握しないまま戦っている、ということだ。
幻と戦う認知戦の専門家たち
以下、話をわかりやすくするために認知戦、デジタル影響工作、FIMIを総称して認知戦と呼ぶ。
彼らが主に気にしているのは、SNSで広まったナラティブ(流布する言説・物語)と、偽情報の中身と、それを流した主体の名前である。被害がどこにどれだけ及んだのか、数ある事案のどれを優先すべきなのか、という肝心の部分には触れていない。
偽情報やナラティブを見つけるたびに、条件反射のようにそれを分析し、対策と政策を提言することを繰り返している。全体像をつかみ、優先順位をつけて対処するという文脈が、すっぽり抜け落ちている。
昨年、北欧の国の心理防衛庁が公開した報告書には、ドッペルゲンガーという西側世界でもっとも研究された作戦ですら、ロシア内部では作戦にはなっていなかったと書かれていた。表層の現象だけをもとに、ドッペルゲンガーという幻を作り上げて追っていた、という指摘だ。
本コラムでも、能登半島地震をめぐって流れた偽情報の実態が、メディアの報じた像とは大きく異なっていたことを取り上げたことがある(能登地震から1年 )。語られていた被害像と、データに当たって見えてくる実態とは、規模も流通の経路もずれていた。