専門家が戦っていた相手は、実態というより、自分たちの作りだした幻想だったのだ。
この傾向は日本に固有のものではない。欧米13機関による認知戦レポート507件(2022年以降)を分析し、中国・ロシア・イランの政策的方向性――軍事ドクトリン(戦略・能力の体系)を含む――と照らし合わせた。
多くの研究機関がドッペルゲンガーという幻のような、自ら作り上げた幻と戦っていることが浮き彫りになった。
実態と乖離していた認知戦の研究
今回、性格の異なる二つの評価を組み合わせることで欧米の専門家も幻と戦ってきたことが明らかになった。
ひとつは認知戦に関する報告書評価、すなわち個々の認知戦事案を分析した報告書が、その事案をどれだけの精度で捉えたか。
もうひとつはドクトリン評価、すなわち攻撃側の国家がどんな戦略、能力、狙いを持っているか。
攻撃側の戦略、能力、狙いを、報告書が検知、分析、対処できていなければ、そのギャップが幻を生む元になる。
検知できていなければ、対処どころか全体像を認識することも、起きていることを理解することもできない。結果として、ピースの欠けたパズルで現実とは異なる敵の姿を作ることになる。攻撃側の能力をただしく分析できなければ、効果的な対策を講じることはできない。
第1の発見が、中国、ロシア、イランの3か国に関する報告書すべてに共通する死角は「作戦基盤」だった。
作戦基盤とは、表に出るナラティブなどの背後で工作を実際に動かす実行基盤――資金の流れ、自動化(ボット)、増幅ネットワーク、物理的攻撃との連動、反射統制効果(パーセプション・ハッキングやウォードルの拡声など、暴露が逆効果になるもの)など――を指す。
これらの項目では3つの攻撃国はいずれもドクトリン評価の得点は高いのに、報告書が最重要トピックとして扱った割合は低い水準にとどまった。