情報の海の中から正確かつ必要な内容を選び取る力
この構図を一変させたのがインターネットとSNSの普及だ。今では海外の研究者による最新の論文から専門家を名乗る人のアドバイス、個人の体験談まで膨大な情報がネット上にあふれ、誰もが欲しい情報を検索し、自ら発信することもできる。
こうした医療情報の「民主化」には、専門家に頼らずとも一定の知識を得て、自分で判断を下せるというメリットがある。だがその半面、玉石混交の情報の海の中から、正確で、かつ自分に必要な内容を選び取る力が弱ければ、不適切な発信に引きずられて判断を誤り、かえって不利益を被るリスクも付きまとう。
そんな事態を回避するために不可欠なのが「ヘルスリテラシー」だ。WHOによれば、ヘルスリテラシーとは健康に関する情報にアクセスし、内容を理解して評価し、それを意思決定や行動につなげる力を指す。
この能力が低いと、情報を正確に理解できないだけでなく、極端な主張や根拠の乏しい説に引き寄せられやすくなる。その結果、食生活や運動習慣の見直しといった予防行動が後手に回り、病気の発症や重症化のリスクが高まりかねない。
さらに、いざ病気になった際にも兆候に気付きにくかったり、医師の説明を踏まえて的確な選択をするのが難しかったりする。ヘルスリテラシーの高低が健康格差に直結するのである。
実際、この分野の100件近い研究を体系的にレビューし、米医学誌アナールズ・オブ・インターナル・メディスンに掲載された論文によれば、国際的に用いられる評価尺度でヘルスリテラシーが低いと判定された人ほど、マンモグラフィーによる乳癌検診やインフルエンザワクチンの接種といった予防行動を取らない傾向が一貫して見られた。
また入院や救急医療の利用が多い傾向も顕著で、高齢者では健康状態の悪化や死亡率上昇との関連も確認された。