グレン氏によれば、物語形式でシナリオを書く真の目的は、人間の「無知」を晒け出すことにある。因果の連鎖を実直に解きほぐしていくと、必ず「次に何が起こるか全く予測できない」という壁に突き当たる。それこそが、既存のデータからは見えない「未知の未知(Unknown Unknowns)」を発見する瞬間である。
この手法は、もともとランド研究所が世界大戦を回避するために「自分たちが何を研究すべきか」を特定するために開発した知的な武器であった。
地球規模の地平を描く『State of the Future 20.0』とAIの進化
現在、グレン氏が最も注視しているテーマの一つが、人工知能(AI)の指数関数的な進化である。グレン氏は日本の専門家たちを前に、かつてのSF(サイエンス・フィクション)がいかにして現実の科学的事実(サイエンス・ファクト)に変貌してきたかを語った。同氏自身が1980年代に著した『Future Mind Artificial Intelligence; Merging the Mystical and the Technological in the 21st Century』の中で示した未来、例えば、「The 21st-Century Human Consciousness」などはAI花盛りの現代においてもなお、極めて今日的なテーマだ。30年以上前の著作であるにもかかわらず、その内容は色褪せずに示唆に富む。
同氏の卓見により、未来を見据えるフレームワークを、圧倒的なスケールで集約したのが、グレン氏、ゴードン氏、エリザベス・フローレスク氏らの共著による最新のデジタル著作『State of the Future 20.0』である。

本書は、人類が直面する「15のグローバルな挑戦(環境、経済、平和、そしてAGI〈汎用人工知能〉の倫理的発展など)」を包括的に分析した超大作である。世界中の何百人もの未来学者の集団知性を統合し、単なる受動的な予測ではなく、人類が取るべきアクションの道標を提示している。
グレン氏は、近年のミレニアム・プロジェクトの成果として、リアルタイム・デルファイ調査を用いて何百もの専門家の意見を凝縮し、導き出した「90のグローバルな行動(アクション)」について詳しく説明した。これらは政府の政策、経済的なセーフティネット、科学技術戦略、文化的適応にまで及び、AIによる構造的失業といった複雑な社会課題に対して、表面的なSTEM教育の推奨に留まらない、多角的な解決のシナリオを提示している。