疎空間におけるインフラ──「都市型」でなく根本的な見直しを
土居 インフラについては、「人口密度が高いと一人当たりの費用は下がる」と『シン・ニホン』で書かれています。この余力を受け、日本の地方財政は、スケールメリットのある都市で多く上がった税金を固定費の高い地方に配って成り立っています。今回の「谷本」では、その点に関するソリューションを何か示しておられますか。
安宅 ソリューションというより、都市からの輸血が期待できなくなるとすると、疎空間は何をやらなくてはいけないかですよね。
我々の検討結果は、現在の日本のエコノミーは、1平方キロメートル当たり数千人の人口密度でやっとコストと生み出す価値が釣り合うというのが実態です。高コストの原因は、簡単に言うと都市型のインフラを疎空間に持っていっていることです。
例えば舗装道路は当然のインフラと思われていますが、すぐそこを走る国道1号線のコストは場所にもよりますが1キロメートル当たり50億円を軽く超えるはずです。キロ100億円を超す部分もあります。1メートル当たり1000万円ですね。
首都高速道路C2は大橋から熊野町まで1キロあたり680億円、1メートル6800万円。さらに高い東京湾アクアラインは、1キロ934億円、1メートル1億円近いです。
土居 具体的に数値で示されると道路というインフラがまた別物に見えてきますね。
安宅 しかし、どこかの疎空間に幅5メートルの舗装道路を農道スペックで敷くとすると、1キロ約5億円、1メートル50万円です。でも、これより低コストで舗装道路を造るのはほぼ無理です。つまり国道と比べて一桁くらいしか落ちません。
人口密度はといえば、東京都23区は1平方キロメートルあたり約1万6000人、最も高い豊島区は2万3000人。それに対して例えば20人の疎空間であれば1000分の1です。それなのに道の値段は10分の1にしか落ちない。水道も同様です。「都市型のインフラを疎空間に持っていく」とはこういうことなんです。
土居 確かに大都会も疎空間も同じインフラを利用しているため、採算コストの差がこれだけ出てしまうということですが、何か施策などあるのでしょうか。
安宅 インフラの見直しは根本的に場合分けをする必要があります。我々の検討では道には2種類あります。
1つは「この町」と「あの谷」をつなぐような「つなぐ道」。車やバイクでの移動が前提となるので舗装せざるを得ない。もう1つは「つながる道」。疎空間の中にぽつりぽつりといる人や施設の間にある道の交通量は、多くて日に10台程度で、道を傷(いた)めるトラックも走りませんから、高度に整備する必要はありません。
用途による場合分けをして、どうしても必要なところだけをハイスペックなインフラにする。つまり「身の丈に合った」ものにするというのが1つです。
それから、よく言われるオフグリッドですが、都市のようには安くなりません。しかも、まばらに導入すると、インフラコストがかかるばかりでかえって経済が悪くなる。しかし、物によって採算が合う瞬間があるので、オフグリッド化すると決めたらそこを正確に見定めて導入する必要があります。
谷のインフラ整備についてはこのように、場合分けをして身の丈に合ったものを選び、オフグリッド化する場合は根本的な見直しをすることを、学校、水道、道など、あらゆる側面でやっていく必要があるのです。
土居 今後の日本全体を考えると、インフラのスペックに強弱をつけるのは積極採用すべき新しい原則という感じがしますね。