<イスラーム社会から見える「日本の共学化論争」への新たな視点について> 

あなたの出身校は男子校か女子校だろうか。あるいは共学校だろうか。なかには別学と共学の両方を経験した方もいるかもしれない。

日本では今、高校や大学の共学化が急速に進んでいる。背景には、少子化による定員割れ等があり、学校の統合や共学化が、経営上の合理的な選択として進められているケースも少なくない。

同時に共学化は「ジェンダー平等」の名のもとに語られる。しかし、教育におけるジェンダー平等とは何か。そもそも、何をもってその実現が可能となるのか。

この問いを考えるうえで、イスラーム諸国の男女別学と共学のあり方は重要な視点を与えてくれる。

イスラームと男女分離の規範

この春、イスラーム研究者である筆者らは、イスラーム教徒の多く暮らす国々の男女別学と共学を取り上げた書籍『男女別学の倫理とイスラーム──教育のジェンダー平等を問う』(地平社)を出版した。

イスラームの教えには、思春期を過ぎた男女は同席すべきでないという規範がある。その理由には、結婚していない男女が親しくすることが、古くからのイスラーム法で大罪とされてきたズィナー(姦通)に近づくことへの恐れや、性的不道徳を防ごうとする社会的慣行がある。

したがって、男女別学の学校は、「男女の節度ある分離」という宗教的倫理に根差したものであり、社会的秩序を守るための制度でもあるのだ。しかし、イスラーム教では、女子教育を決して禁じてはいない。むしろ学びを得ることは男女ともに重要視されている。

8世紀頃にはすでに、子どもたちに聖典クルアーンを教材として読み書きなどをおしえるクッターブ(学校、塾)が各地に存在していた。理念的には別学が望ましいとされていたが、小さな私塾では女子も共に学ぶことがあったようだ。

近代以前においては、専門的なイスラーム学を志すための学校(マドラサ)に通うことは、14、5歳以上の限られた男子だけだった。しかし、19世紀以降に近代的学校制度が整備されるようになると、男女ともに就学率が上がり、世界の他地域と同様に高学歴化が進んでいった。

イスラーム諸国の男女別学・共学の多様なあり方

ただし、ひと口に「イスラーム諸国」と言っても、教育制度は国によって異なる。現行の学校制度の原型は20世紀に整備されたが、政治体制や植民地経験の有無などにより、男女別学か共学のいずれを基本とするかも大きく異なる。

エジプトでは、普通学校は小学校が共学、中学・高校は男女別学、大学以上は共学だ。一方、10世紀以来の伝統を持つアズハル・モスクに併設された宗教学院をもとに制度化された学校は、小・中・高のすべてが男女別学で、大学にも女子部が設置されている。

アズハル系の学校は、イスラームを深く学びたい人だけでなく、女子教育に消極的だった保守的な家庭の子どもたちの受け皿にもなっているという。