安宅 自動走行を継続するのに必要な情報を得られなくなったからです。これは未来のAI社会のリスクの1つになります。現在、東京電力の電気のダウンタイムは年間約5分です。年間50分でパニックになります。

これからおそらく10年ぐらいかけて、自動運転は電気や水道並みのユーティリティになる。AIがユーティリティ化した社会においては年間5分くらいしか落とせない。そのくらいすきまなくAIに依存する時代に向かっていると思います。

話がずれましたが、おっしゃるとおり、自動運転が下道(したみち)にも広まりヒューマノイドなどがその辺を歩くようになる頃には、「人手不足と言っていたのは、いったい何だったんだろうね」となるでしょう。

「風の谷」──都市集中型の未来へのオルタナティブ

土居 続けて、『「風の谷」という希望』について伺います。『シン・ニホン』の第6章で、「都市集中型の未来へのオルタナティブ」として、使える技術を使うことで人間が自然とともに豊かに生きる社会を「風の谷」として構想されました。

土居丈朗先生

おおいに共感します。一見ありきたりの村おこしのようだけれど似て非なるもの、また、反文明的な「自然に帰れ」みたいな話でもないですね。

安宅 はい。土地の記憶を大切にしつつ、最先端の技術も使い、自然と調和、融合して暮らす新たな選択肢の提案です。

最初の問題意識は、人類は急速に都市化を進め、世界中至るところに限界集落が生じているが、「都市にしか住めない」未来しか残さなくてもいいのか、というものでした。そこで7年前(編集部注:2018年)から、さまざまな分野の知恵とテクノロジーを組み合わせて人間が自然と共に生きる新しいかたちを模索し始めました。

土居 それはプロジェクトチームとして行っているのでしょうか。

安宅 詳しくは「谷本」で紹介していますが、多様なバックグラウンドを持つ「風の谷をつくる」検討に加わった人は、候補地で活動している人を除いても、100人前後います。

まず、「都会」対「地方」の図式では問題が捉えきれないので、「都市」に対する概念として「疎空間」を定義しました。そして、「存続可能(viable)かつ持続可能(sustainable)な疎空間」を「風の谷」と呼んでいます。

地球との共存、人口調整局面のしのぎ方という問題が最も先鋭化した空間で答えを出せれば、人類への希望となるだろうとも考えています。それこそが残すに値する未来であるという希望をもって今も探究と行動を進めています。

土居 5年半前(編集部注:2020年)に『シン・ニホン』で書かれた「風の谷憲章」から変更はあるのでしょうか。

安宅 「北極星の方向はこっち」という程度のふわっとした指針しか言っていませんから、変更はありません。そのときおぼろげに感じていて、その後その正しさを確信したのが、「国家や自治体に働きかけて実現させるものではない。ただし、行政の力を利用することを否定するものではない」という部分です。

土居 具体的にはどういうことでしょうか。

安宅 かなり初期段階で「ともに風の谷をつくりたい」と言ってくれた自治体がありましたが、選挙で首長が代わると前任者が担いでいたというだけの理由で我々が放逐されてしまいました。

谷をつくろうとすれば、「インフラコストを劇的に下げる」「まちのつくり方を変える」「森をつくり直す」こともやっていきますから、数十年ないし100年かかります。どれほどの長期政権が続いても首長1人の世代では終わらない。

そういうどのようなトップの任期をも超えた息の長い取り組みは、国や自治体ドリブンでは不可能だという認識です。