ハーバード大学医学大学院のアヌパム・ジェナ教授(医療政策学)は本誌に対し、診療の場における無意識、あるいは明白なバイアスが誤診のリスクを高めていると語る。女性の話を聞く時間が短かったり、症状を見過ごしたりといったことが背景にあるという。

ジェナによれば、現代医学の大部分は男性を対象とした研究に基づいている。そのため、女性では異なる症状が現れる疾患は見逃されたり、手遅れになってから診断されたりすることがある。「典型的な例は心筋梗塞で、男性と女性では症状の出方が異なる」とジェナは指摘する。

また、ベイラー医科大学のハーディープ・シン教授(医学)は、「現在、診断技術や検査への依存度が高まる一方で、患者の話を聞き、診察し、すべての症状を確実に把握して適切な判断を下すための時間が不足している」と話す。これが検査の繰り返しを招き、特に誤診された患者に多額のコストを強いる結果となっている。

この問題が及ぼす影響は、金銭面にとどまらない。ハイ・ライズ・フィナンシャルによれば、米国では毎年約79万5000人が、誤診が原因で死亡、あるいは生涯残る障害を負っているという。

ジョンズ・ホプキンス大学のアームストロング研究所診断エクセレンス・センターの責任者であるデビッド・ニューマン・トーカー教授(神経学・眼科学・耳鼻咽喉学)は、「米国内では、少なくとも年間5000万件、おそらく1億件に近い診断ミスが発生しており、そのうち約100万件が深刻な後遺症や死を招いていると推測される」と述べる。家族にとっては、入院期間の長期化や収入の減少に加え、介護やリハビリのための継続的な出費を意味する。

20年にわたりこの問題を研究してきたシンは、「状況は決して良くなっていない」と断言する。

ニューマン・トーカーは「持続的に注目し、投資が行われない限り、この問題が消えることはない」と述べる。解決のためには、「研究資金の増額や、診断ミスに関する品質評価基準の日常的な導入、規制当局による監視、そして、より良い診断結果をもたらす臨床革新を促すような、成果報酬型の支払いモデルの構築が必要だ」とニューマン・トーカーは指摘している。

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