Yusuke Ogawa
[東京 27日 ロイター] - 米国、イスラエルとイランの紛争を受けて、株式や原油市場の乱高下が続いている。23日は、日経平均株価が6万円台に乗せる場面があった。日々刻々と情勢が変化する中、ニュースや企業開示をはじめとした膨大な情報を生成AIを使って即時に解析し、投資判断に生かす試みが広がってきた。急速な進化を続けるAIは、波乱相場を乗り越える「切り札」となるのか。
地政学リスクの数値化に挑む、auアセットマネジメントの東出卓朗・最高運用責任者(CIO)に話を聞いた。
――地政学リスクを分析するAIシステムを開発した狙いは何か。
株価や業績データと同じように、地政学情勢を定量的に扱いたいと考えたためだ。既存の調査会社のサービスは参考にはなるが、運用現場でそのまま活用できるほど具体的ではない。レポートの書き手によってニュアンスが異なる点も運用担当者にとってネックだった。たとえば「ポジションをどのくらい調整すべきか」といった判断には、数値化された客観的な指標が必要になる。
生成AIの登場によって、これまで扱いにくかったテキストや画像などの非構造化データを分析しやすくなったことも、システムの開発を後押しした。私自身がAIの研究者なので、その知見を活かして自らコーディングを手がけている。
――システムの概要は。
過去の紛争事例や歴史的文献を学習させた生成AIのモデルに、最新のニュース・ヘッドラインを読み込ませる仕組みだ。例えば「米国がイランの核施設を攻撃した」という速報が入れば、単にキーワードに反応するのではなく、出来事の背景や今後起こり得る展開まで踏まえて、ニュースの意味を把握し、即座に「緊迫度」を10点満点で判定する。
大事なのは、ニュース自体の重要性と、それがマーケットに与える影響を切り離して評価することだ。どんなに衝撃的なニュースでも、市場が反応しないケースはある。そのため記事だけでなく、過去の類似ケースにおける株価騰落率などとの相関を分析して、スコアを算出している。もちろん資産ごとに反応が異なるため、株式、債券、為替、コモディティーごとに波及度のパラメーターを調整している。
――現在の活用状況は。
2024年11月の米国大統領選挙でトランプ氏が勝利し、世界秩序の流動化が進むとにらんで開発に着手した。昨年末から試験運用を開始した矢先にイラン紛争が起きた。現在は、あくまでも運用担当者の投資判断のサポート材料として活用している。過去のニュースを用いて、AIシステムをテストすると、AIはすでに「結果」を知っているため、極めて高い的中率を出してしまい有効性の評価が難しい。
ただ今回、ホルムズ海峡封鎖の速報が流れた際、システムは「9」や「10」といったスコアを弾き出した。直後の日経平均株価の大幅下落を鑑みれば妥当な評価だったと言える。
――今後の目標は。
厳密な検証や精度の改善を重ねた上で、1年後をめどに、緊迫度の数値を基にしながら完全自動で売買できるようにしたい。個別銘柄を発掘する「ボトムアップ運用」では、決算資料の分析などの面でAIの活用が進み、アナリストの役割も一部代替されつつある。しかし、マクロ経済の動向を予測する「トップダウン運用」では、複雑な国際政治の状況などを把握する必要があり、AIの全面活用は珍しい試みといえよう。
また、トランプ氏など世の中に影響を与える人物のSNSを常時監視し、発言が市場に与えるインパクトを瞬時に評価するAIシステムの開発も視野に入れている。
もっともAIを駆使した投資手法が普及すれば、瞬間的なボラティリティーの増幅は避けられないだろう。ニュースのヘッドラインが出た瞬間に売買のアルゴリズムが一斉に反応するようになるため、同一方向の注文が殺到し、値が飛びやすくなるなどの弊害には注意が必要だ。
(聞き手・小川悠介 編集:橋本浩)