「原発さえなければ」と堆肥舎の壁に書き残して自死


文雄は生涯のすべてを農に捧げた全身全霊の農民であった。また、その人生は一貫して故郷・飯館村の山や土とともにあり、102年の一生をほぼ費やした結晶というべきものこそが、手塩にかけて耕しつづけてきた村の田畑群でもあった。
 そんな文雄にとってみれば、いくら政府が発した緊急措置とはいえ、「全村避難」指示によって村を追われ、人生で一度も経験のない村以外の地で慣れぬ避難生活を強いられるなど断じて耐え難かったろう。そしてなにより、事故原発が大量に撒き散らした放射性物質によって村が、山が、水が、そして手塩にかけて拓き育ててきた田畑が汚されるのは、心と体を八つ裂きにされるような苦痛に等しかったろう。(128ページより)

本書を読んでいたら、福島県相馬市の酪農家の男性が「原発さえなければ」と堆肥舎の壁に書き残して自死したという当時の報道を思い出した。

他人事とは思えない出来事だっただけにショックを受けたものだが、ああして世に出た話題以外にも、多くの悲劇がきっとあったのだろうなと、そんなことを感じもした。

『百年の挽歌――原発、戦争、美しい村』
百年の挽歌――原発、戦争、美しい村

 青木 理・著

 集英社

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[筆者]
印南敦史

1962年生まれ。東京都出身。作家、書評家。広告代理店勤務時代にライターとして活動開始。他に、ライフハッカー[日本版]、東洋経済オンライン、サライ.jpなどで連載を持つほか、「ダ・ヴィンチ」などにも寄稿。『遅読家のための読書術』(ダイヤモンド社)、『人と会っても疲れない コミュ障のための聴き方・話し方』(日本実業出版社)、『この世界の中心は、中央線なのかもしれない。』( 辰巳出版)など著作多数。2020年6月、日本一ネットにより「書評執筆本数日本一」に認定された。

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