気づかれないように、俺は声を整えた。まさか泣いているなんて知ったら、カールが驚いて悪いことをしたと感じてしまうに違いなかったから。それは俺の本意じゃない。

 「ご家族は、反対、しませんでしたか?」

 「私の家族?」

 いたずらっぽくカールは片言の英語で言った。反対を押し切ったのだろうと俺は思ったが、答えは違った。


 「彼らは応援してくれています。妻とは、毎晩スカイプで話しますしね。いつでもとってもいいアドバイスをくれるんです。子供たちもそうです。私を誇りにしてくれている」

 カールはどうしても俺を感動させたいらしかった。いやいや、とんでもない。彼にはまったくそのつもりはなく、だからこそ俺の心の震えは収まらないのだった。

 そして追い打ちが来た。

 「それにね、セイコー。私はここにいる人たちと知り合えました。64才になって、こんなに素敵な家族がいっぺんに出来たんです」

 俺はうなずくのが精いっぱいで、何かを考えるふりをしてカールから屋上の隅へと目をそらした。頬まで流れてきてしまったやつを、俺は手で顔をいじるふりで何度もふいた。

 カールが生きているのは、なんて素晴らしい人生なんだろう

 俺は彼の新しい家族を改めて涙目で見渡してみた。すっかり暗いというのに、連中はまだ熱心に医療についてしゃべっていた。

 これは俺が経験した中で最高のパーティーだ、と思った。

 これ以上のやつは以後も絶対ないに決まってる。

 ふと気づくと、片づけの始まったグリルから知らぬ間にカールが鶏肉のスティックを持ってきてくれていて、それが目の前の皿に置かれてあった。

 腹は満ちていたが、俺はスティックをつまんで肉にかじりついた。

 カールさんの親切をふいにするような、俺は不人情な人間じゃねえ

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(誰かの工夫。水差しにロウソクを入れる照明)

山の闇の中で

 夜九時半にチカイヌを出た四駆は、モン・ナカイへ向かってがたがた走った。

 そして山の斜面で急に止まった。

 坂道の暗闇に、車のライトで照らされた4、50人のハイチ人がいて、二拍子ずつ左右にそっと揺れていた。

 思わず窓を少しだけ開けると、プリミティブな音楽が聴こえた。集団の内部で演奏が行われているようだった。

 彼らは夜の行進をしているのだった。

 それもヤヤと呼ぶのだろうか。

 ともかくイースターのまさに前夜に、彼らがキリストを模していることは確かだった。

 その静謐さと内に秘めて抑え込んだ声の熱狂で、俺にはそれがよくわかる気がした。

 聖夜、が来ていた。

 彼らは彼らで最高のパーティーを始めていた。

続く

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いとうせいこう(作家・クリエーター) 1961年、東京都生まれ。編集者を経て、作家、クリエーターとして、活字・映像・音楽・舞台など、多方面で活躍。著書に『ノーライフキング』『見仏記』(みうらじゅんと共著)『ボタニカル・ライフ』(第15回講談社エッセイ賞受賞)など。『想像ラジオ』『鼻に挟み撃ち』で芥川賞候補に(前者は第35回野間文芸新人賞受賞)。最新刊に長編『我々の恋愛』。テレビでは「ビットワールド」(Eテレ)「オトナの!」(TBS)などにレギュラー出演中。「したまちコメディ映画祭in台東」では総合プロデューサーを務め、浅草、上野を拠点に今年で9回目を迎える。オフィシャル・サイト「55NOTE

※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。