[トゥマコ(コロンビア) 23日 ロイター] - コロンビア、太平洋沿岸。うっそうと葉を茂らせた高木にぐるりと囲まれた空き地一帯は、うち捨てられた違法精油所の跡地だ。廃油が土壌に染み込み、植生を覆い隠し、足下のあらゆるものを黒々と汚している。
湿った土や花の香りをかき消す勢いで、よどんだ廃液だまりから化学物質の臭気が漂ってくる。たまっているのは、近くのパイプラインから盗んできた石油から密造燃料を生み出す原始的な石油精製プロセスによる廃液だ。密造燃料は、その緑の色合いから「パテグリージョ(コオロギの足)」と呼ばれている。
この粗製ガソリンは、コカイン製造に利用され、コロンビアの麻薬取引を後押ししている。コロンビア警察によれば、「パテグリージョ」やガソリンなどの燃料にコカの葉を漬け、アルカロイド化合物を抽出し、麻薬を作るのだという。また、この粗製ガソリンは違法な採掘事業における重機の動力源としても使用されるという。
国連によれば、コロンビアにおけるコカインの推定生産量が記録的水準に達する一方で、石油の盗難も増加している。警察のデータでは、国内の主要石油パイプラインから違法に抜き取られた量は、2018年以降で3倍以上に増加し、22年11月30日の時点で1日当たり平均3447バレルだったことが示された。
だが、パイプラインへの細工や違法な精油作業による漏出が環境に与える影響の規模については、ほとんど分かっていない。こうした行為は人里離れた治安の悪い地域で行われることが多いためだ。
ロイターは9月、石油窃盗対策を命じられた警察部隊に同行取材した。行き先は、コロンビア国内のトランサンディノ石油パイプラインの終端、同国南西部の太平洋に面した港湾都市トゥマコ近郊の2カ所である。
違法精油所が隠されていた密林内に切り開かれた空き地は、サッカーのグラウンドを上回る広さだ。3月に警察の強制捜索を受け、操業を停止させられたにもかかわらず、土地は石油で黒々と汚されたままだ。
警察の話では、この精油所は反政府勢力「コロンビア革命軍(FARC」のウリアス・ロンドン派が所有していたもので、コカイン製造のためにパテグリージョを生産していたという。同派は16年に政府とのあいだで結ばれた和平協定を拒絶している。
ロイターでは、この件について独自の裏付けを得られず、またウリアス・ロンドン派に接触してコメントを得ることもできなかった。
現場には、破壊されたたるの金属片や、10基以上の金属製の蒸留釜が散乱している。この蒸留釜では500─1000ガロンの石油が処理可能とされる。ラ・グアヤカナという小さな町からは、徒歩で1時間強の距離だ。
周辺の木々は、精油作業の過程で放出される汚染された蒸気のために葉を落としていた。
ジョハン・ペナ大佐は「被害は甚大だ。動物も樹木も、全て完全にやられてしまっている」と語る。同大佐は、エクアドル国境近く、コカイン製造で有名な地域ナリノ県で石油窃盗対策の任務に就く警察部隊を指揮している。
「これだけの被害を世界に伝えるのに、言葉では言い尽くせない」
近隣を走るトランサンディノ・パイプラインは、アンデス山脈の向こう側にあるプトゥマヨ県からトゥマコまで石油を輸送している。大部分は地上に敷設されており、石油を盗む上ではおあつらえ向きの標的だ。
このパイプラインからは、22年の1─11月に1日当たり約951バレルの石油が盗まれた。これは21年通年での被害を約5%上回った。
パイプラインを運営する企業セニットは、株式の過半を国が保有するエコペトロルの子会社である。へき地における盗難防止対応が直面する課題について同社に質問したが、回答はなかった。
<強制捜査>
コロンビア警察は22年10月中旬時点で、トゥマコ地方112カ所の秘密精油所を制圧した。21年通年では103カ所を強制捜査、20年には112カ所を破壊したという。コロンビアの地方警察部隊「カラビネロス」のウィリアム・カスタノ大佐がロイターに語った。
こうした拠点で精製されても、利用されるのは盗まれた原油の3分の1にとどまるのが普通だとカスタノ大佐は話す。残りは地面に投棄されてしまう。
カスタノ大佐によれば、違法精油所1カ所当たり平均3平方キロメートルの周辺環境が汚染されると警察では推測しているという。ロイターでは、その推測の根拠を判断することができなかった。
「違法精油所は、動植物を痛めつけ、大気を汚染し、表土や底土、それに地下水にもダメージを与え、この地域を流れる支流にも損害を及ぼしている」と同大佐は語った。
コロンビアは世界で最も生物多様性に富む国の1つで、数万種類の生物種を誇り、約60万平方キロの密林、森林に覆われている。大量の炭素を蓄積する森林の保護は、気候変動対策という点でも極めて重要だ。
ロイターは10以上の環境保護団体、人権擁護団体、政府機関、国際機関に取材したが、コロンビアにおける石油窃盗がもたらす環境被害の規模については詳細な情報がないと答えるか、そもそも質問への回答がなかった。
国連薬物犯罪事務所(UNODC)の職員として、押収された薬物や化学物質の処理を担当しているエクトル・エルナンド・ベルナル氏は、「石油窃盗が引き起こす環境への影響は依然として不明だ。秘密裏に行われる違法行為で、治安の悪い場所でひっそりと行われているからだ」と語る。
コロンビアの鉱業エネルギー省は声明で「人々と生態系に被害を及ぼす」継続的な漏出は憂慮すべきことだとし、政府はこの問題を調査していると発表した。
<裏社会の燃料需要>
UNODCによれば、コカインの推定生産量は21年に14%増加して1400トンと過去最高を記録した。またUNODCはロイターに対し、コカイン取引で使用される燃料の需要は、4億4700万─7億0500万リットルに上ると明らかにした。
UNODCでは、こうした燃料のうち「パテグリージョ」が占める量は特定できないとしている。
エネルギー問題の啓発団体「クルード・トランスパレンテ」の調査員カテリーヌ・カサス氏は、「炭化水素資源の窃盗は(違法に武装した)組織の武力強化にもつながっている」と語る。
コロンビアの暴力犯罪組織にとって「パテグリージョ」は麻薬と違法採掘に次いで3番目に大きな収入源であり、武器その他の装備の購入を支えているとカサス氏は指摘する。
ドイツのフリードリヒ・エベルト・シュティフトゥング財団がこの夏に発表した報告書によれば、コロンビアの民族解放軍(ELN)と解散したFARC分派のゲリラたちは、「パテグリージョ」1バレル当たり約2.1ドル(約280円)の税を徴収していることが判明している。
<影響は長期に>
警察やアナリスト、UNDOCによれば、石油パイプラインからの抜き取りにはハンドドリル、精度の低いバルブ、プラスチック製チューブが使われることが多く、保管や精製もいい加減に行われるため、結果として頻繁に漏出が起きているという。
盗まれた石油が違法精油所に到着すると、円筒状の釜に移され、高温で煮沸される。発生した蒸気を冷却すると「パテグリージョ」になる。
ナリノ県の環境当局「コルポナリノ」は声明で、漏出の規模によるが、石油に汚染された土地の回復には数十年かかり、完全に復活するには1世紀以上が必要だと指摘している。
警察やアナリスト、科学者らも、同様の試算をロイターに示した。
コロンビアのカリにあるバレ大学天然資源工学・環境学部のマルタ・ダザ教授によれば、地面に石油が漏出すると、土壌のすき間をふさいでしまい、微生物による酸素の取り込みが制約されてしまうという。
ダザ教授は、「こうしたすき間がふさがれてしまうと、水が循環できず、微生物だけでなく、地虫やアリ、植物の根など肉眼で見える生物にとっても、土壌中の生命活動に必要な酸素が減少してしまう」と語る。「これはとてもダメージが大きい」
トゥマコでは、トランサンディノ・パイプラインから200メートル以内にある複数の集落が目についた。違法に取り付けられたバルブから石油が漏れ、下方の油だまりに渦を巻いて落ちていった。
インターナショナル・クライシス・グループのコンサルタントとしてコロンビアの違法石油産業を調査したブラム・エブス氏は、上水道の本管に接続していない農村地域のコミュニティーは河川に依存しており、石油漏出による健康リスクに直面していると指摘する。
エブス氏はロイターの取材に対し、「パイプラインに違法に取り付けられたバルブはすぐ外れてしまう。河川や小流に流れ込む原油によって、町全体に供給している水道管が汚染されかねない」と語った。
石油漏出による健康への影響についてナリノ県地方衛生当局に問い合わせたが、今のところ回答は得られていない。
(Oliver Griffin記者、翻訳:エァクレーレン)