自分に優しい祖父は、かつて父に暴力を振るっていた

漫画家の尾添椿にとって、10歳のころに初めて会い、同居することになった祖父は優しい存在だったという。心臓が悪く寝ていることが多い、声の小さな90歳前後のおとなしい老人。だが、笑ったところはほとんど見なかったそうだ。

尾添が転校先の学校でいじめられ、泣いて帰ってきても両親はまともにとりあってくれなかったが、「きちんと接してくれるたったひとりの大人」である祖父は、彼女にとっての落ち着ける居場所だった。

しかしその一方、父親の太ももに残った大きなやけどの痕に違和感を覚えてもいた。父親によれば、「子どものころ、真っ赤に焼けた火かき棒でおやじに殴られてできた傷」であり、背中には数カ所、やはり祖父に刺されたという刺し傷もあった。

だとすれば、それは彼女が知る祖父の姿とはあまりに違う。

「虫の居所が悪いとすぐに殴られた」と語る父は、17歳で家を出るまで日常的に暴力を受けていた。自身が抱く祖父のイメージと噛み合わないため、尾添はある日、父のやけど痕について祖父に聞いてみたという。


祖父はかすれ声で語り始めた。当時9歳だった父と一緒に、暖炉の灰を火かき棒でかき出していたこと。突如、幻覚に襲われ、気づいたら手に持っていた火かき棒を振り回していたこと。「暖炉の炎の奥に、殴り殺された血まみれの中国人の死体が燃やされているのが見えた。感情が爆発して、とにかく誰かに暴力を振るわないと『ここから逃げられない』という気持ちになるんだよ」
 そして、祖父はこう付け加えた。「訳が分からなくなって、子どもに棒が当たって......。俺はいいおやじになれなかった」(185ページより)

「国のために俺らがどれだけ手を下したか知ってるのか!」
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