私の四十年に及ぶ犯罪研究において、動機がはっきりと分かった事件は一つもありません。正確に言えば、トリガー(最終的な刺激要因)は分かっても、そこに至るまでに蓄積されたルサンチマン(憎悪)は解明できていません。言い換えれば、犯行の原因は無限にさかのぼることができ、一つを切り取ることは不可能なのです。

もっとも、「マスコミは動機を報道しているではないか」と思われるかもしれません。しかし、検察官や裁判官は、犯罪心理の専門家ではなく、法律の専門家です。司法機関の役割は事実の確定であって、動機の解明ではありません。そもそも、動機の解明など初めから行っていないのです。

カミュの小説『異邦人』には、犯人が法廷で動機を問われ、「それは太陽のせいだ」と答える場面があります。カミュが伝えたかったのは、まさに「人の心の奥底は見えない」ということではないでしょうか。

ここで私が、長々と動機について述べてきたのには理由があります。それは、本書が動機に注目していないことを、知っていただきたかったからです。

動機が分からなくても、犯罪は防げます。「機会なければ犯罪なし」です。必要なのはこの一点です。「動機や原因」ではなく、「機会や場所」に注目してください。それだけで、皆さんの生活は格段に安全になります。

マスコミが伝える「動機や原因」は、あくまで事件にけじめをつけるために、「とりあえず、そうしておこう」と警察や裁判所が考えたものにすぎません。
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