<バイデン政権がIPEF(インド太平洋経済枠組み)を通じて意図していることは、必ずしも中国の力が十分に及んでいない国々に対して知的財産権保護を求めることにあると言えるだろう......>

1990年代から2000年代初頭にかけて、欧米などの西側諸国は中国やロシアなどのリビジョニスト国家が自由貿易体制に組み込まれることで、彼らが自由で民主的な価値観を受け入れると楽観視していた。

そして、WTOは自由貿易体制を守る象徴的な機関として考えられてきた。同機関に加盟した国々は、自由貿易体制に組み込まれるとともに、知的財産権などのビジネスルールを尊重するように変わるはずであった。

しかし、現実の国際政治はそれらの楽観論を否定しており、我々は理想とはかけ離れた厳しい現実に向き合う必要性に迫られている。

WTOが知的財産権保護を骨抜きにする道具に

今やWTOの主要国間の貿易紛争を調停する機能が麻痺していることは周知の事実だ。各国が安全保障を理由とした例外規定などの建前を並べて、同機関の自由貿易の理念を骨抜きとするように精を出す姿は見るに耐えかねる有様だ。

しかし、現在WTOにおける最も深刻な問題は、WTOの議論の場が知的財産権保護を骨抜きとする道具と化そうとしていることだろう。

WTO加盟国はTRIPS協定に基づいて、知的財産権保護と権利行使手続きの整備が義務付けられている。そのため、WTO加盟国は国内法を整備して知的財産権の保護に努める必要がある。

しかし、現在WTOではこのTRIPS協定を免れるための免除規定に関する議論が喧しくなっている。きっかけはコロナ禍において、2020年10月にTRIPS理事会でインドと南アフリカが治療薬やワクチンに関連した知財に関するTRIPS規定の免除を求めたことにある。

既存の国際機関で中国の影響力が増大

知的財産権の保護を主張する欧米及び日本などの先進国は同免除に当初反対の立場を取ってきたが、製薬企業などによる特許権の開放を求めて途上国らは同免除に積極的な姿勢を見せてきた。裏で途上国側の糸を引いているのは当然に中国ということになる。

欧米及び日本などの先進国にとって高い技術力に支えられた知的財産権は重要だ。しかし、欧米の知的財産権によるガードを突き崩すために、その強制的な移転を求めてきた中国にとっては、現状では先進国の知的財産権保護の取り組み、新たな覇権を握るための障害でしかない。

ロシアのような単純なリビジョニスト国家は恐怖と暴力で他国を威圧するやり方しかとりえないが、中国のように豊富な経済力・外交力を活用して国際機関を通じた働きかけを駆使する国の相手は極めて厄介である。国連を始めとした既存の国際機関では中国の影響力が増大し続けており、途上国がその尖兵として利用されている面も否めない。

インドを巻き込む形で推進することの意義