例えば、エチオピアでは6月29日、政府を批判する同国の有名歌手ハチャル・ハンデッサ氏が首都アディスアベバで殺害され、これをきっかけに抗議デモが各地に拡大。その結果、抗議デモの参加者80人以上が殺害され、政府はSNSを遮断した。

エチオピアはこの10数年間、順調に経済成長し、そのパフォーマンスは世界的にも注目されてきた。その一方で、民族間の対立は根深く、とりわけ人口で最多のオロモ人の間では政府への反感が広がっている(ハチャル氏もオロモ出身だった)。

そのエチオピアでは、FAOの調査によると、バッタの襲来により20万ヘクタール以上の農地が被害を受け、今年に入って全国平均で食糧価格が50パーセント上昇している。こうした社会不安は、民族対立を噴出させるきっかけになったといえる。

古来、食糧やエネルギーの不足による社会不安は革命や内乱の引き金になってきた。エチオピアの政治危機は東アフリカ各国にとって対岸の火事ではないのだ。

軍事的な緊張の高まり

第三に、バッタの大群はすでに高まっていた国家間の緊張をエスカレートさせかねない。その典型が中国とインドの対立だ。

中国とインドの間には、これまでにも領土や勢力圏をめぐる争いがあったが、6月15日に両軍が国境にあるガルワン渓谷で小競り合いを演じ、インド兵20人が死亡したことで、これまでになく緊張が高まっている。

6月中旬以前、バッタ対策で中国とインドが協力する可能性も取り沙汰されていた。しかし、中印の緊張がこれまでになく高まった後は、バッタがむしろ両国の関係をさらに悪化させる一因にもなっている。

6月29日、中国政府系の英字紙グローバル・タイムズは「中国にはインドのバッタ対策を支援する力がある」と述べたが、そのうえで支援の前提として「インド側が頼まなければならない」と付け加えた。

念のために補足すれば、支援において相手からの要請を前提にするのは中国の基本方針だ。それは「押しつけ」のイメージを避けるもので、マスク外交でもそれは同様だった。

しかし、このタイミングでインドにそれをいえば、反感をさらに招くことは目に見えていた。実際、インドでは反中世論が噴出。火に油を注ぐことになった。

社会を見直す契機に