・香港では抗議デモに参加する若者が多いだけでなく、とりわけ高学歴の若者ほど海外移住を目指す者も多く、両者は社会のあり方を拒絶する点で共通する

・一方で、香港政府の責任者、林鄭月娥長官は優秀な公務員だが、騒乱の責任の大部分を負うはずのボスから権限を与えられないまま、対応することを求められている

・香港デモの当事者である両者の姿は、優秀な人材が潰されるシステムの弊害を浮き彫りにする

デモに参加していた18歳の若者が警官の発砲を受けたことで、香港デモは新たな局面を迎えた。エスカレートする騒乱は中国による統治がかかえる根本的な問題を図らずも浮き彫りにしたといえる。それは優秀な人材が潰されるシステムである。

優秀な若者ほど海外を目指す

香港のデモは若者が中心だが、その背景には「がんばっても将来の見通しが開けない社会」への不満がある。

1997年の返還以降、中国資本が大量に流入し、さらに本土との取引が増えたことで、香港ではそれ以前にも増して景気がよくなった。

ただし、その一方でインフレが歯止めなく進行した結果、生活コストは上昇。とりわけ住宅難は深刻で、一人あたり床面積は16平方メートルにとどまる。これは日本の国土交通省が住生活基本計画で定める一人あたり25平方メートルと比べても狭い。

こうした不満を背景とする抗議活動と並行して、香港では若者を中心に海外移住も盛んだ。台湾の中央研究院の呉親恩博士の調査によると、香港では42.7%が海外移住の意向をもっており、これは台湾(38.5%)や日本(29.6%)と比べても高い。

さらに香港政府によると、海外に移住する者は過去5年間、毎年10%前後のペースで増加しており、2017年だけで24300人にのぼったが、なかでも若者が増加している。

デモへの参加と海外移住は、手法こそ違うものの、社会の現状を拒絶するという意味では同じだ。「文句があるなら出ていけ」といわんばかりの支配は、実際に出ていける優秀な若者の流出を促してきたといえる。

行政長官の悲哀

その一方で、「潰されている」のは若者だけでなく、香港デモのもう一方の当事者である行政長官も同じだ。

デモが3カ月を超え、長期化するにつれ、香港政府の林鄭月娥(キャリー・ラム)行政長官への非難は、香港市民の間でも高まる一方だ。

ただし、彼女を擁護する気は全くないが、同情の余地はある。というのは、「問題発生に大きな責任を負うはずのボスから事態の処理を押し付けられ、しかも実質的な解決を目指す権限もほとんど与えられていない」からだ。

実弾発砲は必然のシナリオ