<スウェーデンとフィンランドの加盟申請でロシア世論は「西側悪玉論」に飛び付き、軍は反転攻勢の構えを見せ始めている>

私が住んでいたモスクワの集合住宅には、住民同士の交流を図るSNS「テレグラム」のチャットグループがある。参加者は国際感覚に秀でた数百人の若い専門家たちだ。(編集部注:筆者はロシア国家経済・公共政策大統領アカデミー特別教授として招聘されていたが、ウクライナ戦争勃発後に帰国した)

チャットグループの参加者は、当局の規制を擦り抜ける VPN(仮想私設網)サービスや外国発のニュースソースにアクセスできる。ロシアと西側での在住期間が同じくらい長い参加者も多い。

ほぼ全員が修士号を持ち、高級外車の送迎で都心の職場に通っている。それでもロシアのウクライナ侵攻開始から間もなく3カ月の時点で、戦争に関する話題はすっかり目立たなくなった。

各種世論調査の結果を総合すると、戦争に対する支持はモスクワ在住者と30歳未満、VPN利用者の間で目立って低い。チャットグループの参加者たちは戦争について語る言葉を失ったのだろうと、私は思った。

彼らはほぼ戦争反対派なので、住所と電話番号が登録済みのテレグラムでそれを公言すれば、反対意見の圧殺に血眼の当局から何らかの罰や規制を受けるのはほぼ確実だ。だが最近、ロシア経済と通貨ルーブルが外国メディアの主張よりもずっとよく持ちこたえていると感嘆するメッセージが、チャットグループに散見されるようになった。

私のロシア人の妻はジムやヨガのトレーナーに毎週数回、予約を入れている。彼らは戦争に抗議するためか、アルメニアやトルコに引っ越してしまったので、トレーニングはテレビ会議システムのズーム(Zoom)で行われるようになった。

だが今では、トレーナーたちは全員モスクワに戻っている。携帯電話のSIMカードの分析で得られたデータによると、ウクライナ侵攻直後に国外に脱出したロシア人の80%が、現在では帰国しているそうだ。

スウェーデンとフィンランドにおいてNATO加盟の支持率が5割を超えるなど、ウラジーミル・プーチン大統領のウクライナ侵攻はこれまで軍事的に中立だった国に驚くべき世論形成をもたらしている。

しかし、長期的に見ればこれはプーチンにとっての勝利になり得る。

例えばトルコは既にこの2カ国の加盟を拒むと声高に主張している。多くの専門家はレジェップ・タイップ・エルドアン大統領がいずれ翻意すると考えているだろうが、NATOにおけるいかなる亀裂もプーチンにとっては心地のいい音色だ。

ウクライナで予期せぬ抵抗を受け続けていることやイギリスがスウェーデンとフィンランドとの安全保障を強化すると表明していることからも、プーチンがNATO加盟前の2カ国を攻撃するとは考えにくい。

戦争を支える3つの陰謀論