最新記事

人権問題

奴隷船から400年 現代もなおアフリカが受ける奴隷搾取

2019年8月14日(水)12時36分

住み込みの無給メイドとして、ナイジェリアの首都アブジャに住むある家族に預けられることが決まった時、ブレッシングさん(仮名)はわずか6歳だった。写真はナイジェリアのベニンシティで仕立て屋として働くクラウディア・オサドロールさん(仮名)。7月撮影(2019年 ロイター/Nneka Chile)

住み込みの無給メイドとして、ナイジェリアの首都アブジャに住むある家族に預けられることが決まった時、ブレッシングさん(仮名)はわずか6歳だった。学校に通わせてもらうという約束で、母親が預けたのだ。

ナイジェリア南西部にある故郷の町では、母親は3人の子を食べさせるのに十分な稼ぎがなかった。

だがアブジャでの生活が始まると、預け先の家族はブレッシングさんを一日中働かせ、仕事を忘れれば電線でむち打ち、腐った残り物を食べさせた。

母親はその後、娘の近くに住むためアブジャに移ったが、ブレッシングさんは母親が訪ねてきても2人きりで会うことは許されなかった。

「母親が来るが、何をされているか言ってはいけない、そもそもしゃべってはいけないと言われた」と、ブレッシングさんは打ち明ける。

「どうしているのと母に聞かれたら、元気でやっていると答えろと言われた」

記録に残る最初のアフリカからの奴隷が北米に到着してから、ちょうど今年で400年になる。だが奴隷は、今日の問題でもある。4000万人以上の人が、強制労働や強制結婚、その他の性的搾取の環境に囚われていると、国連は推計している。

現在11歳になったブレッシングさんも、そうした被害者の1人だ。隔離と虐待が2年続いた後の2016年、ブレッシングさんは人身売買の問題に取り組む団体「WOTCLEF」に救出され、今も同団体の保護下にある。ロイターは、WOTCLEFの許可を得てブレッシングさんを取材した。

人権団体「ウォーク・フリー・ファンデーション」と国際労働機関(ILO)が出した2017年の報告書によると、「奴隷」が最も多いのはアフリカで、1000人あたり7人が被害者となっている。この報告書は、奴隷を、「ある人間が、脅しや暴力、強制やいつわり、そして権力の乱用によって、拒否したり去ったりできない搾取的状況」と定義している。

ほかの仕事があると思い込まされて売春させられる例は、最も広範にみられる悪質な現代の奴隷の1形態だ。

クラウディア・オサドロールさん(28=仮名)とプログレス・オモビエさん(33)の経験は、貧困がいかに女性を搾取されやすい状況に陥れるかを物語っている。

ナイジェリア南部ベニンシティに住んでいたオサドロールさんの家族は家計が行き詰り、オサドロールさんは大学を中退。誰かが就職を世話してくれ、渡航費も支給されると従妹から聞かされ、ロシア行きを決めた。2012年6月、知らない少女3人と共にナイジェリアを後にした。ロシアに着くと、「マダム」と呼ばれる人が迎えに来ていた。

オサドロールさんは売春を強制され、1日最大20人もの相手をさせられて、傷を負ったという。3年間拘束され、その間2週間に一度「マダム」がやって来てオサドロールさんのお金をほとんど取り上げていった。

地下鉄の駅で偶然、国際移住機関(IOM)の職員と出会ったことをきっかけに脱出したオサドロールさんは、トラウマや逃げ出せた時の安堵感について泣きながら語った。

「家族のために一番大きな犠牲を払ったと思う。でも、生きて帰ってこれたことを神に感謝する」と、彼女は話した。

オサドロールさんは、ナイジェリアの慈善団体の支援で仕立て業の訓練を受け、ベニンで社会復帰することができた。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

EU、凍結ロ資産活用へ大詰め協議 対ウクライナ金融

ビジネス

トランプ氏、次期FRB議長候補の最終面接を今週開始

ワールド

トランプ氏、メキシコなどの麻薬組織へ武力行使検討 

ビジネス

米国株式市場=S&P小幅安、FOMC結果待ち
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
2025年12月16日号(12/ 9発売)

45年前、「20世紀のアイコン」に銃弾を浴びせた男が日本人ジャーナリストに刑務所で語った動機とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 2
    【クイズ】アジアで唯一...「世界の観光都市ランキング」でトップ5に入ったのはどこ?
  • 3
    中国の著名エコノミストが警告、過度の景気刺激が「財政危機」招くおそれ
  • 4
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 5
    「韓国のアマゾン」クーパン、国民の6割相当の大規模情…
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    「1匹いたら数千匹近くに...」飲もうとしたコップの…
  • 8
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 9
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 10
    ゼレンスキー機の直後に「軍用ドローン4機」...ダブ…
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 4
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 5
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 6
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 7
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 8
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 9
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 10
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 9
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中