最新記事

アメリカ社会

ヘロインなど「オピオイド系薬物中毒」 米国の地域社会に深刻な影

2017年9月26日(火)12時54分


全体像の把握はこれから

薬物過剰摂取の増加に取り組む郡は、緊急通報の増加、監察医や検視官への支払い増加、刑務所や裁判所の過密状態によるコスト高に直面している、と全米3069の郡や地方自治体を代表する全米カウンティ協会のエグゼクティブ・ディレクター、マット・チェイス氏は語る。

同協会が7月に年次総会を開いた際に、会場を埋めた参加者の前で、各郡当局者がオピオイド中毒対策のノウハウ、危機がもたらした財政問題を発表した。危機が郡予算に与えた財政上の影響をより完全に把握するため、全米カウンティ協会は初期段階の情報収集に努めている、とチェイス氏は語る。

山がちの地形で村落地域を主体とするペンシルバニア州インディアナ郡の状況は、オピオイド中毒が、いかに地方におけるサービス及び財政を圧迫しているかを物語っている。

郡庁所在地インディアナには、現代的な大学のキャンパスが立地し、メインストリートにはレストランが並び、星条旗が飾られている。

だが、静謐な外観の下では、オピオイド中毒が至るところでまん延している、と郡の麻薬対策タスクフォースを率いる秘密捜査官デビッド・ロスティス氏は語る。

ロスティス氏の車に記者が同乗した際、彼は次々に様々な場所を示してそれぞれ説明した。それらは、医師がセックスのためのオピオイド系薬剤を売っていたビル、ティーンエイジャーが過剰摂取で死亡した裕福な家族の住む家、最近ドラッグ絡みの殺人事件が起きた小道、過剰摂取のため女性が車中で死亡しているのに道行く人々が気づかなかったガソリンスタンド、などだ。

インディアナ郡における薬物過剰摂取による死亡率は昨年、人口10万人当たり50.6人だった。これは州平均の36.5人を大きく上回っている。

同郡における検視や毒物検査のコストは、2010年の約8万9000ドルから2016年には16万5000ドルへと、6年間で2倍近くに膨れ上がった。

裁判コストも増大している。地元の当局者によれば、これは主として、オピオイド中毒関連の犯罪の訴追及び被告人のための公選弁護人費用のためだ。

インディアナ郡政府の上級幹部マイク・ベイカー氏は、検視官報酬コストの増大を危険準備金で賄っていると言う。こうした準備金の拠出は、2014年の1万9000ドルから、昨年は6万3000ドルに急増した。2014年、同郡における薬物関係の死亡数は10件だったが、2016年には53件に増えている。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

トムソン・ロイター、第1四半期は予想上回る増収 A

ワールド

韓国、在外公館のテロ警戒レベル引き上げ 北朝鮮が攻

ビジネス

香港GDP、第1四半期は+2.7% 金融引き締め長

ビジネス

豪2位の年金基金、発電用石炭投資を縮小へ ネットゼ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 2

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロシア空軍基地の被害規模

  • 3

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 4

    「500万ドルの最新鋭レーダー」を爆破...劇的瞬間を…

  • 5

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 6

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 7

    「複雑で自由で多様」...日本アニメがこれからも世界…

  • 8

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 9

    中国のコモディティ爆買い続く、 最終兵器「人民元切…

  • 10

    「みっともない!」 中東を訪問したプーチンとドイツ…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 5

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 6

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 7

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 8

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 9

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 10

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 10

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中