なぜ実写版『リトル・マーメイド』は中国で大コケしたのか?
Disney's China Problem
世界でヒットした実写版『リトル・マーメイド』も中国市場では苦戦した ©2023 DISNEY ENTERPRISES, INC. ALL RIGHTS RESERVED.
<多様性への「政治的公正」が馴染まない? ディズニーが中国市場に食い込み続けるには「迎合」だけでなく、常に変わり続ける中国社会の変化を見極めなくてはならない>
当初の期待値が高ければ高いほど、外れたときの失望は深い。ディズニー映画の実写版『リトル・マーメイド』がそうだ。
巨大市場の中国では日本より2週間も早く5月26日に公開されたが、最初の週末の興行収入はわずか370万ドル前後。同時公開のアメリカだけで1億1700万ドル、全世界で4億1300万ドルも稼いだのに比べると、なんとも寂しい数字だ。
事は1つの作品の失敗にとどまらない。「多様性重視」に舵を切って以来、ディズニーは国内外の保守派の反発を買って、なにかとトラブル続き。「おいしい」はずの中国市場も、そうした価値観には背を向けている。
『リトル・マーメイド』に関して言えば、主役の人魚姫アリエルに黒人歌手ハリー・ベイリーを起用したことに対し、中国の映画ファンが人種差別的な拒否反応を示したとの見方がある。だが、不人気の理由はそれだけではない。
いわゆる「ゼロコロナ」政策の3年間、外界から途絶されていた中国の人々は外国、とりわけ欧米の映画への関心を失ったという指摘もある。
新型コロナウイルスを「チャイナ・ウイルス」と呼んだ一部の政治家の無神経な言説も、中国人の心を傷つけた。
今年の上半期で見ると、中国市場で興行収入1億ドルの大台に乗った欧米の映画は、「ワイルド・スピード」シリーズの第10作『ファイヤーブースト』のみ。ちなみに5年前には、年間11本のハリウッド映画が1億ドル超えを記録していた。
中国人が抱いた違和感
「黒い肌の人魚姫」に中国の人が違和感を抱いたのは事実らしい。共産党系の大衆紙「環球時報」の英語版は社説で、「白雪姫と同様に人魚姫のイメージもみんなの心に焼き付いている。だから今回の配役には人々の想像力がついていけない」と指摘した。
しかし英ケント大学教授で中国のネット事情に詳しいオスカー・チョウに言わせると、問題は肌の色だけではなかった。
今回の実写版『リトル・マーメイド』は仕上がりが「安っぽく」、中国のファンがディズニー映画に寄せる「高い期待値」に達しなかった。そのせいで急速に失望感が広まった可能性が高いという。
「ディズニーが何かクリエーティブで革新的な試みをしたのは理解できる」と、チョウは言う。しかし「それが成功したとは思えない」。