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急逝した異色の日本画家・加藤弘光は、なぜ世界を目指したのか

2022年12月05日(月)19時55分
岩澤里美(スイス在住ジャーナリスト)

第36回チェルシー国際美術コンクールで入賞・展示した加藤弘光の「光さやけみ (Autumn Red)」2017年作

<現代アートとしての日本画で世界に日本文化を伝えようとした>

今年8月、ニューヨークのギャラリー街のスペースに、個性的な1枚の日本画が展示された。月夜に燃えるごとく光る紅葉を描いたその作品「光さやけみ」は、日本画家、加藤弘光(享年62歳)が東日本大震災の被災者たちへの強い思いを込めたもの。キャリアを積んだアーティストも入賞をねらうチェルシー国際美術コンクールの審査を勝ち抜いて出展した。

応募は数千点に及んだ。静かな気迫がある加藤のその絵は、大きな反響を呼んだ。これを機に、加藤はニューヨークから世界へと羽ばたき始めた。ただ1つ残念なのは、彼が他界し、私たちが新作を見ることがもはやかなわないことだ。

「これから、もっと国外へ」というときに急死

長年、加藤は東京で年2回の個展を開き、アメリカ、ヨーロッパ、韓国でアートフェアにも参加していた。そして2019年早春、スペイン・マドリード近郊の学生街サラマンカで1カ月間の個展開催を果たした。

会場に並んだのは、日本を象徴する桜や紅葉、蓮の大型作品だ。桜はピンクの綿菓子のような表現ではなく、非日常的な空間で花びらが精霊のごとく揺れ動き、色濃い神秘性を放っている。紅葉も、平面から飛び出してきて鑑賞者を幻想的な世界のワンシーンに誘う変わった作品だった。

加藤弘光「幻華 (Vision)」

加藤弘光「幻華 (Vision)」2016年

海外で初めてのこの個展は、彼の夢の1つだった。地元の専門家たちからの評価もとても高く、個展は盛況に終わった。

加藤は、地元メディアへのインタビューで日本画というジャンルの素晴らしさを熱心に語り、「自分の絵を世界の人たちにもっと見てもらいたい。それは日本という文化や日本人の考え方を提示することであり、日本的な思考が世界を変える糸口になると思っている」と話した。

加藤は、サラマンカの会場を訪れた筆者が「今回は大きな第一歩ですね」と話しかけた際も、「これから、もっと海外で展示していきたいです」と、はにかみながら答えた。同行した妻と娘と一緒にスペインの古都を堪能し、美術館をめぐって創作のインスピレーションも得られ、充実した旅だった。

筆者が訃報を耳にしたのは、それから約1カ月後のことだ。埼玉県のアトリエで次の個展に向けて新作を描いていた日、迎えに訪れた妻・友子(ともこ)の前にいたのは、息途絶えた加藤だったという。加藤は、その日、誕生日を迎える友子と出かけるはずだった。

生まれながらの絵描き加藤の、妻との出会い

先日、筆者と対談した友子は、「ようやく、あまり重苦しい気持ちにならずに、彼のことをいろいろとお話しできるようになりました」と、加藤について語ってくれた。加藤には持病はなく、急性の病気で治療を受けていたわけでもなかった。ただ、「眠るな、描きまくれ!」という声がどこからか聞こえてきて眠れないことが多々あり、睡眠時間を惜しんで描くことが頻繁にあったという。振り返ってみれば、それが命を削ることにつながったのだろう。

宮城県で生まれ育った加藤は子どものころから、鉛筆で、あらゆるモチーフの絵を描いていた。親が呆れるほどに朝から晩まで描きまくり、将来の夢は絵を描くアーティスト以外に考えられなかったという。高校では美術部に所属。特にレベルの高い美術教育は受けていなかった。東京の美大を受験し、2度不合格。3度目の挑戦でやっと、定員20人の超難関をクリアできた。

専攻は日本画だった。日本画は宝石に使う鉱物等を粉末にしたものが絵具の原料で、それを動物の皮が原料の膠(にかわ)と混ぜて色を作り、塗っていく(膠を接着剤として使用し画面に張っていく)。この特殊な技法を習得するには長い時間がかかるが、それでも日本画を選んだのは「自分の気持ちを絵として表現できるのは、日本画しかない」と高校3年生のときに気付いたからだった。日本画というジャンルを知ったときの身震いするほどの感激は、生涯消えることはなかったそうだ。

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