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England Swings!

ラッシャー貴子|イギリス

ロンドンに現れたライオンを追いかける

 慈善活動であれ、純粋なアートの展示であれ、このライオンのように目をひくものが身近に設置されることは特に目新しいわけではない。ロンドンでは2018年夏にも野生のサイの保護を目的としたタスク・リノ・トレイル(Tusk Rhino Trail)という同じような活動があったし、2002年の大規模なカウ・パレード(Cow Parade)でもカラフルな牛が街じゅうにあふれていた(これはアートの普及が主な目的だったが、農業や恵まれない子どもへの支援金も集めた)。

 ロンドン以外では現在も、郊外のルートン周辺でゾウの保護をめざすThe Big Trunk Trailでゾウの姿が、イングランド北部のシェフィールドでは入院中の子どものための資金を集めるBears of Sheffieldでクマの像が置かれている。動物に限らず、教会や博物館に立体的な大きな月が展示されるMusem of the Moonも今、各地を巡回して大人気だ。

 ふだんならこういう像はひと目見て「かわいいな」「きれいだな」で通り過ぎてしまうのだが、この日はなんだか特別だった。ひとつひとつ特徴のあるライオンを見て歩くうち、すごく楽しくなってきたのだ。

ライオン - 1.jpeg

ピカデリー地区では、あちこちの建物の壁にQRコードが設置されていて、スマホをかざすと、その場でロンドンにあるさまざまなアートに触れることもできる(オーグメンテッド・リアリティー・アート・ギャラリー(Augmented Reality Art Gallery))。筆者撮影

 カラフルで個性的なライオンたちの体はつやつやした光沢があって、見ているだけでも気持ちが明るくなるし、久しぶりに観光気分でロンドンの街を歩き回ったのも新鮮だった。それに観光客らしき人を見たのも嬉しかったんだと思う。たくさんの人がライオンの写真を撮って、子どもたちがライオンに抱きついたりまたがったりしていたのだ。ロンドンに観光客が戻ってきたということはことは日常が戻りつつあるということだから。(後になって、このライオンには乗らないようにと注意書きがあることに気がついた。展示後には売却されるアート作品だからだ。よい子のみなさんはマネしないでね)

 考えてみると、ロックダウンが終わっても、出かけること自体に罪悪感を持ちすぎていたかもしれない。イングランドでは、7月にコロナ関連の規制は基本的に撤廃されている。つまりもうマスクをしなくていいし、人との間の距離も取らなくてもいいのだ(実際にはマスクをする人はまだまだいる)。「家にいましょう」と言われないどころか、むしろ政府はオフィスに戻って仕事することを推奨している。それなのにロックダウンから気持ちを切り替えられなかったのか、状況があまりよくない日本のニュースを引きずっていたのか、つい家にこもってしまっていた。やたらに出て歩くよりはいいかもしれないけれど、やっぱりちょっともったいない。

古い建物を明るく彩る絵画やカラフルな路上のペインティングの魅力は動画の方が魅力が伝わると思い、Art of LondonのTwitterからシェア。ピカデリー・テイクオーバーの作品は、ほとんどがロイヤル・アカデミー・オブ・アーツ(王立芸術院)会員の著名なアーティストによるものだ。

 気がつくと、街が華やかに見えるのはライオンのおかげだけではなかった。頭上には大通りを横断するように絵画が掲げられて風にはためいており、歩行者用が横断する路面は鮮やかな色でペインティングされていた。これは秋に始まるアートの季節の予告としてピカデリー地区で開かれているピカデリー・アート・テイクオーバー(Piccadilly Art Takeover)というイベントの一環で、どれも著名なアーティストが描いたものだ。こうしたアートは目にするだけで気持ちが明るくなるし、色や動きも加わって街がさらにいきいきして見える。

 街では日常を取り戻そうと、いろいろな催しが行われている。心身の健康を保ちながら長引くコロナ禍とうまくつきあうには、ときどき心を弾ませることがきっととても大切だ。気をつけることは忘れずに、これからもっと楽しく外出しよう。

 

Profile

著者プロフィール
ラッシャー貴子

ロンドン在住15年目の英語翻訳者、英国旅行ライター。共訳書『ウェブスター辞書あるいは英語をめぐる冒険』、訳書『Why on Earth アイスランド縦断記』、翻訳協力『アメリカの大学生が学んでいる伝え方の教科書』、『英語はもっとイディオムで話そう』など。違う文化や人の暮らしに興味あり。世界中から人が集まるコスモポリタンなロンドンの風景や出会った人たち、英国らしさ、日本人として考えることなどを綴ります。

ブログ:ロンドン 2人暮らし

Twitter:@lonlonsmile

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