最新記事
インタビュー

車いすユーザーの声は「わがまま」なのか? 当事者に車いす席の知られざる実態を聞く

2024年3月25日(月)11時30分
小暮聡子(本誌記者)

――障がい者割引をせよ、と法律などで決まっているわけではない?

公共交通機関の割引は法律で決まっているけれど、映画館の割引は法律にはないはずだ。割引は事業者側の判断によるもの、ある意味での厚意だ。

 
 


――先日の、この議論の発端になった車いすユーザーであれば、一般席よりも良い席、さらに、障がい者割引の対象外の席を買っている。車いすユーザーからすると、逆にちょっとお金を払ってでも良い席で観たい、という気持ちはあるのか。

それは、何にしてもある。例えば、今回の件をSNSで発信した女性は、特に脚の血流が悪くて1日を終える時には真っ青になってしまうらしい。彼女に限らず、車いすユーザーのほとんどは、脚がむくみやすい。歩ける人はふくらはぎが足のポンプ役をして血流がよくなっていくけれど、われわれはずっと脚を動かさないので、血流が滞留しがち。

彼女は脚の血流を改善させるために毎日のように足湯をやっているそうだが、足を上げてあげることも非常に効果的だ。なので、リクライニングができる席で映画を2時間観られるということは、彼女にとっては身体的なリスクや負担を軽減することにもなる。単純に良い席で観たいという理由だけでなく、こうした健康面での想いもあったのではないかと思う。

選択肢について言うと、ホテルの客室選びでも少ないと感じることがある。例えばスタンダードやデラックス、スイートが設定されている場合、車いす対応の客室は、だいたいスタンダードレベルが中心だ。例えばプロポーズするためになんとか良い部屋に泊まるぞ、とか、夜景のきれいな部屋に泊まりたいと言っても、低層階に対応客室があって夜景が見えないとか、室内の設えがチープだったりする。

2019年に改正される前のバリアフリー法だと、客室総数50室以上の宿泊施設に対して車椅子使用者用客室を1室以上設ければいいとされていたので、仮に1000室あるホテルの場合、1部屋でも良く、当事者からすると選択肢は1つしかない。

眺望も重要視されていない傾向にあるし、そういった意味では、「とりあえず」なのだ。とりあえず、バリアフリー法にのっとって席を作りました、部屋を作りました、という体(てい)を一応為した、というだけ。なので、バリアフリー化をポジティブにとらえて実践しているところはまだまだ少ない、という印象だ。

一方で、障がい者の選択肢の幅については、特にアメリカは進んでいる。大谷選手がいるドジャースタジアムの車いす席は垂直・水平分散できていて、全ての階層のいろんなエリアから席が選べるようになっている。

例えば、一塁側から見るとホームの三塁側が見えるから、大谷さんが見やすいんじゃないかなとか、大谷さんに声を届けたいなと思って三塁側を選んだりとか。それが、1階席だったり2階席だったり、ホームランボールを取れそうだよねって、外野席を買うこともできる。

でも日本国内の球場などは、まだまだ選択肢が少なくて、決まったエリアしか選べないということが多い。だから観戦に行くと毎回同じ席ということになりがちだ。アメリカでは眺望や金額から自由に選べるようになっていて、今回はグラウンドに近い良い席、給料日前だから安い3階席にしよう、と。選択肢が豊富にあるということは、楽しみ方が沢山あるとも言い換えられるかもしれない。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

タイとカンボジアが攻撃停止で合意、トランプ氏が両国

ビジネス

FRB現行策で物価目標達成可能、労働市場が主要懸念

ワールド

トルコ大統領、プーチン氏に限定停戦案示唆 エネ施設

ワールド

EU、来年7月から少額小包に関税3ユーロ賦課 中国
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
2025年12月16日号(12/ 9発売)

45年前、「20世紀のアイコン」に銃弾を浴びせた男が日本人ジャーナリストに刑務所で語った動機とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の脅威」と明記
  • 2
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 3
    受け入れ難い和平案、迫られる軍備拡張──ウクライナの選択肢は「一つ」
  • 4
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 5
    【揺らぐ中国、攻めの高市】柯隆氏「台湾騒動は高市…
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    首や手足、胴を切断...ツタンカーメンのミイラ調査開…
  • 8
    「前を閉めてくれ...」F1観戦モデルの「超密着コーデ…
  • 9
    人手不足で広がり始めた、非正規から正規雇用へのキ…
  • 10
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 4
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 5
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 6
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 7
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の…
  • 8
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 9
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 10
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中