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インタビュー

太田光が「統一教会信者にも言葉が届けばいい」と語る理由

2022年12月13日(火)17時09分
石戸 諭(ノンフィクションライター)
爆笑問題、太田光

太田は「どんな人々にも言葉が届けばいい」と語る HAJIME KIMURA FOR NEWSWEEK JAPAN

<旧統一教会に関する発言で炎上した爆笑問題・太田光は本当に「無知」なのか。テレビで言い尽くせなかった思いをノンフィクションライター・石戸諭が聞いた>

※前後編のインタビューの前編です。後編はこちら

爆笑問題の太田光のコメントがこの数年、炎上を呼び続けている。旧統一教会(世界平和統一家庭連合)問題での発言は「教団擁護」と批判され、そしてテレビの選挙特番で政治家を笑い飛ばした態度は大バッシングを引き起こした。「昔は良かったのに」「あいつは何もものを知らない」と言われ続けた渦中に、彼は何を考えていたのか。11月下旬、東京・阿佐ヶ谷駅――所属事務所「タイタン」の会議室を訪ねると、そこにはテレビの前とは少し違う、丁寧に言葉を選び、しかし、ユーモアを忘れない一人のコメディアンがいた。

太田光(以下、太田):「どうした太田光」「彼はこれを読めば旧統一教会問題が分かる」というような記事が一般紙や大手の週刊誌でも出たよね。そこで挙げられた文献は、そのくらい読んでいるよというものばかりだった。公に無知であると決め付けられたこと。これは精神的には普通の炎上よりもきつかったね。

旧統一教会をめぐる発言は、単なる賛否を超えて、強烈なバッシングと"無知"な太田にものを教えてやれという動きに発展した。炎上した代表的な発言の一つは、太田が司会を務める番組『サンデー・ジャポン』での旧統一教会をめぐる問題の「きっかけがテロだったことをマスコミは自覚しなければいけない」というものだ。

太田:単なる殺人事件が、社会的メッセージとして有効に機能していいのかという思いが先にあったんだよね。俺は(安倍晋三元首相銃撃の容疑者)山上徹也が引き起こした事件は一つのテロだと思っている。

山上をダークヒーローにしてはいけない

俺はなんで山上容疑者がこの事件に及んだのか、という背景にはすごく興味があるし、知りたいと思っている。彼が記したとされるツイッターの投稿を読んでいたとき、この人は(バットマンの悪役)ジョーカー、特にホアキン・フェニックス主演の映画『ジョーカー』に心酔しているんだと感じた。映画の中のジョーカーは、犯罪そのものを表現だと考えるダークヒーローだけど、実際の社会にいたら、凡庸でつまらない殺人者にすぎない。やったことは単なる犯罪でしょ、って言ってあげないといけない。

マスコミは山上容疑者が犯行に及んだ背景を掘り下げたり、旧統一教会と政治家の関係を報じたりすることは当然のことで続けないといけないけど、同じかそれ以上の熱量で、暴力も否定しないといけないと俺は思う。暴力に訴えることで何かをかなえてしまう、ヒロイックな気分を満たすという成功体験を与えると、ほかにも刺激を受ける人々が出てくるからね。

人間の行動原理、犯行動機は一つではないはずだし、断片的な情報を頼りに安易に政治と宗教の問題だけを大きく取り上げていいのか、という思いは今でもある。断片的な情報を頼りにして、彼をダークヒーローにしてはいけない。

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