最新記事

イスラエル

憎悪の生中継、ユダヤ系極右がアラブ系住民を「集団リンチ」

What We Know About Israeli Mob 'Lynching' on Live TV

2021年5月14日(金)16時51分
イワン・パーマー
ハマスのロケット弾で焼け焦げたイスラエルの車

ガザ地区から飛来したロケット弾を受けて焼け焦げた車(5月11日、イスラエルのホロン市) REUTERS/Ronen Zvulun

<野党指導者は国が「制御不能」の状態にあると非難しアラブ系議員は「内戦の瀬戸際」を警告>

パレスチナとの衝突が激化するイスラエルで5月12日、アラブ系住民とみられる男性が極右のユダヤ系住民たちによって車から引きずり出され、集団リンチを受ける事態が発生。イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相を含む政治指導者たちが、これを強く非難している。

テルアビブ郊外のバトヤムで起きたこの事件は、イスラエルの公共放送「チャンネル11」が生中継した。

タイムズ・オブ・イスラエル紙の報道によれば、チャンネル11のダニエル・エラザール記者は中継映像の中で、「今まさに『リンチ』が起きています」とヘブライ語で言った。「現場に警察官はいません」

映像には、多くが黒い服を身につけ、ユダヤ系住民が大半を占める極右集団が、アラブ系住民とみられる男性の運転する車を襲い、男性を車から引きずり出す様子が映っている。

極右集団はその後、この男性を暴行。映像を見ると彼らは、地面に倒れて動かなくなっている男性を、繰り返し殴打している。報道によれば、事件発生から約15分後に救急隊が現場に到着し、男性を救護した。

「正当化できない」とネタニヤフ

タイムズ・オブ・イスラエルの報道によれば、ユダヤ系住民の集団は、バトヤムの街頭でデモ行進を行っていたところ、男性が自分たちを車でひこうとしたと主張した。だが映像をよく見ると、男性は車を襲ってくる極右集団から逃れようとしているように見える。

男性が搬送されたテルアビブのイチロフ病院は声明を出し、「リンチの被害者は重傷だが、容体は安定している」と述べた。被害者に関する詳しい情報は、公表されていない。

バトヤムではこのほかにも、大人数の集団がアラブ系住民の所有する企業や店舗を狙う事件が発生した。彼らは「アラブ人に死を!」と叫びながら、アラブ系住民の経営するアイスクリームショップなどを襲撃したという。

エルサレム・ポスト紙によれば、バトヤムのズビカ・ブロット市長は、アラブ系住民の男性を襲ったのは「市外からやって来た扇動者だ」と述べ、「これは私たちのやり方ではない」と言った。

ネタニヤフも、事件を受けて声明を発表。イスラエルとパレスチナの間で数年ぶりの大規模な暴力の応酬が続くなかで生じた「無政府状態」を非難し、「今回のことは決して正当化されない。アラブ人によるユダヤ人のリンチも、ユダヤ人によるアラブ人のリンチも、決して正当化されるものではない」と述べた。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米中貿易枠組み合意、軍事用レアアース問題が未解決=

ワールド

独仏英、イランに核開発巡る協議を提案 中東の緊張緩

ワールド

イスラエルとイランの応酬続く、トランプ氏「紛争終結

ワールド

英、中東に戦闘機を移動 地域の安全保障支援へ=スタ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:非婚化する世界
特集:非婚化する世界
2025年6月17日号(6/10発売)

非婚化・少子化の波がアメリカもヨーロッパも襲う。世界の経済や社会福祉、医療はどうなる?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高にかっこいい」とネット絶賛 どんなヘアスタイルに?
  • 2
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波でパニック...中国の輸出規制が直撃する「グローバル自動車産業」
  • 3
    サイコパスの顔ほど「魅力的に見える」?...騙されずに「信頼できない人」を見抜く方法
  • 4
    林原めぐみのブログが「排外主義」と言われてしまう…
  • 5
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生…
  • 6
    構想40年「コッポラの暴走」と話題沸騰...映画『メガ…
  • 7
    逃げて!背後に写り込む「捕食者の目」...可愛いウサ…
  • 8
    「結婚は人生の終着点」...欧米にも広がる非婚化の波…
  • 9
    4年間SNSをやめて気づいた「心を失う人」と「回復で…
  • 10
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 1
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 2
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 3
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタらが乗ったガザ支援船をイスラエルが拿捕
  • 4
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 5
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 6
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 7
    ふわふわの「白カビ」に覆われたイチゴを食べても、…
  • 8
    脳も体も若返る! 医師が教える「老後を元気に生きる…
  • 9
    ファスティングをすると、なぜ空腹を感じなくなるの…
  • 10
    今こそ「古典的な」ディズニープリンセスに戻るべき…
  • 1
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 2
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 3
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 6
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 9
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 10
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中