最新記事

人種差別

日本や韓国はアジアじゃない? アジアの「異質さ」が差別との闘いを難しくしている

Just Who Is “Asian” ?

2021年4月15日(木)20時15分
エミリー・カウチ(ジャーナリスト)
アジア系ヘイトに抗議するデモ

アジア系の人々への暴力に抗議するデモは全米各地に広がった JEENAH MOONーREUTERS

<アトランタの銃撃事件は世界に衝撃を与えたが、「黒人」と違って「アジア系」は連帯して闘いに挑むにはあまりに多様>

去る3月16日に米ジョージア州アトランタで起きた銃撃事件は衝撃的だった。犠牲者8人のうち6人がアジア系の女性だったからだ。そこで問題。そもそも欧米社会における「アジア系」とは誰を指すのか。

あの事件に対するアメリカ政府の反応を伝えるに当たり、複数のメディアは副大統領のカマラ・ハリスを犠牲者たちと同じ「アジア系アメリカ人」と呼んでいた。確かに彼女はインド人の血を引いているが、犠牲者の多くは(インドを中心とする南アジアではなく)東アジア系だった。だから筆者は、そうした報道に強い違和感を覚えた。

アメリカは人種に敏感な国で、ともすれば欧州諸国はアメリカの先例に倣おうとする。だからアメリカの首都で働く中国系イギリス人の私にとって、これは単なる理屈の問題ではない。私を含む「アジア系」の人が日々直面しているアイデンティティーをめぐる困難の一部なのだ。

アジア系の明確な定義はない

「黒」は肌の色を指す言葉だが、「アジア」は地理的な概念だ。「BLM(ブラック・ライブズ・マター=黒人の命は大事)」というスローガンは、アメリカの黒人にもイギリスの黒人にも響いた。欧米で黒人として生きる意味には共通の理解があるからだ。

しかし「アジア」の定義は国によって大きく異なる。アメリカの場合、黒人を奴隷とし、搾取してきた過去があるから、人種の概念はいや応なしに肌の色と結び付いている。一方で、東アジア系の人々が黒人ほどに「人種」として意識されることはなかった。

少しでもアフリカにルーツがある人は、アメリカでは黒人と定義される。しかしアジア系の明確な定義はない。アメリカやヨーロッパで「アジア人であること」が何を意味するかについては、いまだに議論の余地がある。

かつてのアメリカで黒人を差別した法律は、肌の色で誰が黒人かを決めていた。しかし東アジア系の人を差別した法律(1875年のペイジ法や1882年の中国人排斥法など)は、「望ましくない」とされる移民をもっぱら国籍で区別していた。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

プーチン氏に不満、対ロシア追加制裁を検討=トランプ

ワールド

英国王、仏大統領を国賓招待 ブレグジット後初のEU

ワールド

米財務長官、来週の訪日を計画 南アで開催のG20会

ビジネス

米消費者の1年先インフレ期待、3%に低下=NY連銀
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:大森元貴「言葉の力」
特集:大森元貴「言葉の力」
2025年7月15日号(7/ 8発売)

時代を映すアーティスト・大森元貴の「言葉の力」の源泉にロングインタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「ヒラリーに似すぎ」なトランプ像...ディズニー・ワールドの大統領人形が遂に「作り直し」に、比較写真にSNS爆笑
  • 2
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、ネットが感動の渦
  • 3
    犯罪者に狙われる家の「共通点」とは? 広域強盗事件の現場から浮かび上がる「2つの条件」
  • 4
    自由都市・香港から抗議の声が消えた...入港した中国…
  • 5
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に..…
  • 6
    トランプ、日本に25%の関税...交渉期限は8月1日まで…
  • 7
    「けしからん」の応酬が参政党躍進の主因に? 既成…
  • 8
    【クイズ】世界で最も売上が高い「キャラクタービジ…
  • 9
    トランプ税制改革の「壊滅的影響」...富裕層への減税…
  • 10
    職場でのいじめ・パワハラで自死に追いやられた21歳…
  • 1
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 2
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコに1400万人が注目
  • 3
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸せ映像に「それどころじゃない光景」が映り込んでしまう
  • 4
    職場でのいじめ・パワハラで自死に追いやられた21歳…
  • 5
    【クイズ】「宗教を捨てる人」が最も多い宗教はどれ?
  • 6
    為末大×TAKUMI──2人のプロが語る「スポーツとお金」 …
  • 7
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に..…
  • 8
    「本物の強さは、股関節と脚に宿る」...伝説の「元囚…
  • 9
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」…
  • 10
    アリ駆除用の「毒餌」に、アリが意外な方法で「反抗…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 3
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 4
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 5
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 6
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 7
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 8
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 9
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 10
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中