最新記事

北朝鮮

「北朝鮮情報をくれた人には5億円」とアメリカが本気で宣伝し始めた理由

2020年12月8日(火)14時45分
高英起(デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト) ※デイリーNKジャパンより転載

米国務省の北朝鮮情報収集プログラムの本気度はかなり高いようだ KCNA-REUTERS

<目的はおそらく、経済制裁を骨抜きにしている中国に圧力を加えること>

米国務省のアレックス・ウォン北朝鮮担当特別副代表(次官補代理)は1日、米シンクタンクの戦略国際問題研究所(CSIS)のオンライン会合で講演し、北朝鮮の制裁違反の証拠を示す情報提供に最大500万ドル(約5億2000万円)の報酬金を支払う方針を明らかにした。米国務省は同日、情報提供を募るための特設サイトをインターネット上に開設した。

同省は特設サイトで、北朝鮮の不法行為を阻止するため「米国当局は『正義への報酬プログラム』(Rewards for Justice/RFJ)から最大500万ドルの報酬を提供しています」と説明。続けて北朝鮮の「武器の販売および輸出」「サイバー活動」「船舶間輸送」「労働者」「マネーロンダリング」「麻薬及び偽造」「高級品」「人権侵害」に関し、どのような情報が必要かを詳細に説明している。

<参考記事:米国に北朝鮮情報を提供して「報奨金5億円」をもらう方法

普段、北朝鮮とまったく関係なく暮らしている人々にとっては、まったく「遠い話」にしか聞こえないかもしれない。しかし職業などによっては、同サイトが求める情報に触れている日本人も少なくないように思える。

国務省は、このプログラムを宣伝するための日本語のポスターまで作成しており、本気度はかなり高いようだ。

それにしても何故、米国は今になってこのような取り組みを始めたのか。おそらく、目的は中国に圧力を加えることだ。

ウォン氏は講演で、北朝鮮に核兵器開発を放棄させるため国連が発動させた制裁措置を中国が骨抜きにしようとしていると非難。中国は制裁決議に違反して少なくとも2万人の北朝鮮労働者を受け入れ続けており、石炭など制裁対象の物資を北朝鮮から中国に海上輸送したと指摘した。米国は過去1年間に、こうした制裁逃れの輸送を555回確認したという。

中国は日本と比べ、北朝鮮との接点がはるかに多い。ということは、国務省が求める制裁違反の情報を持っている人も数多くいるということだ。その中には報奨金を魅力に感じ、米国に「ご注進」する向きもいることだろう。

しかしそれは、習近平体制が望む状況ではない。米国は中国国内に、ある種の混乱をもたらしつつ、北朝鮮に対する水面下の支援を難しくしようとしているのではないか。

<参考記事:「常識を失っている」金正恩"過剰激怒"で処刑を乱発...韓国情報機関

[筆者]
高英起(デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト)
北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。関西大学経済学部卒業。98年から99年まで中国吉林省延辺大学に留学し、北朝鮮難民「脱北者」の現状や、北朝鮮内部情報を発信するが、北朝鮮当局の逆鱗に触れ、二度の指名手配を受ける。雑誌、週刊誌への執筆、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記―』(新潮社)、『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』(宝島社)、『北朝鮮ポップスの世界』(共著、花伝社)など。近著に『脱北者が明かす北朝鮮』(宝島社)。

※当記事は「デイリーNKジャパン」からの転載記事です。

dailynklogo150.jpg



今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

JPモルガンがコインベースと提携、カード経由で仮想

ビジネス

中国JDドットコム、独家電小売りセコノミを22億ユ

ビジネス

旭化成、中間期の営業利益予想を上方修正 医薬事業好

ビジネス

7月消費者態度指数は前月比0.8ポイント低下の33
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ関税15%の衝撃
特集:トランプ関税15%の衝撃
2025年8月 5日号(7/29発売)

例外的に低い日本への税率は同盟国への配慮か、ディールの罠か

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅で簡単にできる3つのリハビリ法
  • 2
    いま玄関に「最悪の来訪者」が...ドアベルカメラから送られてきた「悪夢の光景」に女性戦慄 「這いずり回る姿に衝撃...」
  • 3
    枕元に響く「不気味な咀嚼音...」飛び起きた女性が目にした「驚きの光景」にSNSでは爆笑と共感の嵐
  • 4
    日本人の児童買春ツアーに外務省が異例の警告
  • 5
    【クイズ】1位は韓国...世界で2番目に「出生率が低い…
  • 6
    12歳の娘の「初潮パーティー」を阻止した父親の投稿…
  • 7
    一帯に轟く爆発音...空を横切り、ロシア重要施設に突…
  • 8
    M8.8の巨大地震、カムチャツカ沖で発生...1952年以来…
  • 9
    街中に濁流がなだれ込む...30人以上の死者を出した中…
  • 10
    「自衛しなさすぎ...」iPhone利用者は「詐欺に引っか…
  • 1
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅で簡単にできる3つのリハビリ法
  • 2
    幸せホルモン「セロトニン」があなたを変える──4つの習慣で脳が目覚める「セロ活」生活のすすめ
  • 3
    囚人はなぜ筋肉質なのか?...「シックスパック」は夜つくられる
  • 4
    いきなり目の前にヒグマが現れたら、何をすべき? 経…
  • 5
    航空機パイロットはなぜ乗員乗客を道連れに「無理心…
  • 6
    中国が強行する「人類史上最大」ダム建設...生態系や…
  • 7
    「様子がおかしい...」ホテルの窓から見える「不安す…
  • 8
    【クイズ】1位は韓国...世界で2番目に「出生率が低い…
  • 9
    タイ・カンボジア国境で続く衝突、両国の「軍事力の…
  • 10
    中国企業が米水源地そばの土地を取得...飲料水と国家…
  • 1
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 2
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が話題に
  • 3
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅で簡単にできる3つのリハビリ法
  • 4
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 5
    幸せホルモン「セロトニン」があなたを変える──4つの…
  • 6
    「細身パンツ」はもう古い...メンズファッションは…
  • 7
    囚人はなぜ筋肉質なのか?...「シックスパック」は夜…
  • 8
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップ…
  • 9
    ロシアの労働人口減少問題は、「お手上げ状態」と人…
  • 10
    いきなり目の前にヒグマが現れたら、何をすべき? 経…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中