最新記事

債務の罠

対中デフォルト危機のアフリカ諸国は中国の属国になる?

Does China Engage in Debt Trap Diplomacy?

2020年10月22日(木)17時45分
バシト・マフムード

中国の融資で整備したが、利払いができなくなって中国が99年間租借することになったスリランカのハンバントタ港 CGTN/YOUTUBE 

<パンデミックでデフォルトのリスクにさらされる途上国。これは中国の思う壺なのか、それとも想定外の厄介な事態なのか>

中国は発展途上国に巨額の融資を行ってきた。新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)で世界経済が悪化するなか、途上国はデフォルト(債務不履行)のリスクにさらされている。この状況は中国の思う壺なのか、それとも中国にとっても想定外の厄介な事態なのか。

中国の習近平(シー・チンピン)国家主席が野心的な経済圏構想「一帯一路」をぶち上げたのは2013年だ。陸路と海上輸送路の整備を通じて、ユーラシア大陸からアフリカまで広がる巨大な交易圏の構築を目指すこの構想を、第二次大戦後にアメリカが実施した欧州復興計画になぞらえて中国版「マーシャルプラン」と見る向きもある。

この交易圏には71カ国、世界の人口の半分が含まれることになる。中国に言わせれば、この構想は国有企業を支援するための景気刺激策でもあり、途上国とウィンウィンの関係で経済発展を目指す試みにほかならない。だが批判派は、中国がこの構想を通じて自国の覇権を拡大し、自国を盟主とする新たな世界秩序を構築しようとしていると警鐘を鳴らしている。

香港紙サウスチャイナ・モーニングポストによると、中国が2000年から2018年までに一帯一路事業などでアフリカ諸国に貸し付けた債務は総額1520億ドルに上る。こうした大盤振る舞いは「債務の罠」外交ではないかと警戒されている。返済不能に陥った国は、政治的にも経済的にも中国の言いなりにならざるを得ないからだ。

世界制覇を目指す?

既に実例がある。スリランカだ。中国から多額の融資を受けてインド洋の主要航路に位置するハンバントタ港を整備したはいいが、利払い不能となり、港を99年間中国の租借地にする取り決めをのまざるを得なくなった。米政府は中国がこの要衝に海軍を配備すると見て懸念を表明した。

トランプ政権は、中国にカネを借りたら、戦略的な資産を乗っ取られる恐れがあると、アフリカ諸国にたびたび警告してきた。「アフリカの角」の付け根、紅海の出口に位置する小国ジブチの港湾(アラブ世界とアフリカを結ぶ要衝だ)に至っては、中国は海外初の軍事拠点を築いている。

いまコロナ禍で世界経済が急速に冷え込むなか、途上国が次々にデフォルトに陥り、中国の軍門に下る悪夢のシナリオが現実味を帯び始めた。

それにしても、中国は本当に貧困国を債務の罠に陥れようとしているのか。当の貧困国だけでなく、アメリカをはじめ世界中が中国の策略を警戒すべきなのか。

「債務の罠外交は、カネに物を言わせて他国に圧力や脅しをかける手法の1つにすぎない。中国はこれ以外にも様々な手法を使って影響力を広げ、国際社会における自国の地位を高め、軍事的な拠点網を広げ、覇権を拡大しようとしている」と、米シンクタンク・国際評価戦略センターのリック・フィッシャー上級フェローは本誌に語った。「中国が目指すのは、中華帝国スタイルの世界制覇。経済でも安全保障でも中国に依存する属国を増やそうとしているのだ」

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

欧州委、SHEINへの圧力を強化 パリ裁判所の審理

ワールド

米大統領が中国挑発しないよう助言との事実ない=日米

ビジネス

中国万科、社債が約50%急落 償還延期要請

ワールド

香港高層住宅群で大規模火災、55人死亡・279人不
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ガザの叫びを聞け
特集:ガザの叫びを聞け
2025年12月 2日号(11/26発売)

「天井なき監獄」を生きるパレスチナ自治区ガザの若者たちが世界に向けて発信した10年の記録

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 2
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファール勢ぞろい ウクライナ空軍は戦闘機の「見本市」状態
  • 3
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 4
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果の…
  • 5
    7歳の娘の「スマホの検索履歴」で見つかった「衝撃の…
  • 6
    がん患者の歯のX線画像に映った「真っ黒な空洞」...…
  • 7
    ミッキーマウスの著作権は切れている...それでも企業…
  • 8
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 9
    ウクライナ降伏にも等しい「28項目の和平案」の裏に…
  • 10
    あなたは何歳?...医師が警告する「感情の老化」、簡…
  • 1
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判殺到、そもそも「実写化が早すぎる」との声も
  • 2
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
  • 5
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 6
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネ…
  • 7
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 8
    海外の空港でトイレに入った女性が見た、驚きの「ナ…
  • 9
    【銘柄】イオンの株価が2倍に。かつての優待株はなぜ…
  • 10
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 7
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中